1ページ目から読む
5/5ページ目

 水素爆発直後、あちこちで40万円の日当が支給されたと噂になった。実際、会社によっては高額の危険手当を払ったところもある。私が調べた限り最高額は20万円だった。下請けの作業員に対してもわずか2000~3000円を抜くだけで、従業員に対する待遇がいいと評判の会社だ。だがそれも数日間だけで、中にはわずか5万円という会社もあった。

 危険手当にばらつきがあったのは、当時、まだ東電が危険手当の額を出していなかったからだ。事故があった3月、月末の締めはどの協力企業も通常の単価で請求書をあげるしかなかった。プラントメーカーや協力会社は、それぞれ独自に危険手当を決定していた。そのため会社によって日当に大きな差が生まれたのだ。

※写真はイメージ ©️iStock.com

 Jヴィレッジや宿泊先の旅館前では、マスコミのカメラマンもよく見かけた。

ADVERTISEMENT

「おっ、戦場カメラマンかな。俺もあんな仕事してみたいわ。話しかけてみようか? でもマスコミにしゃべったら問題になるか」

 ばつが悪かったので笑ってごまかした。そう話しかけている相手……つまり私がマスコミの人間だからだ。

刺青を彫った作業員

 作業員の話を訊きたいと熱望していた私は、過剰なほどフレンドリーに振る舞い、あらゆる人間に話しかけた。同じ会社の作業員はもちろん、現場に出ている東電社員やプラントメーカー社員をはじめ、他の会社の作業員にも積極的にアプローチした。とはいえ、ゆっくり話す機会はあまりない。午前5時に旅館を出発し、汗だくになって作業をした後、旅館に戻るのは午後2時を過ぎている。経費節減のためか部屋の浴室は使えず、大浴場で風呂につかる。世間話をするにはうってつけの場所である。

 刺青を彫った作業員は想像以上に多かった。会社によっては作業員の半数近くが刺青を入れていた。一般的に刺青=暴力団という認識が定着しており、浴場の脇にも「刺青・タトゥーを入れた方の入浴はお断りいたします」というプレートがあった。当然、旅館側の要望は完全無視だ。

浪江暴力団追放(写真:著者提供)

 全身に和彫りの刺青を入れていた作業員に「昔、ヤクザだったんですか?」と訊いた。私服、装飾品、車なども暴力団テイスト満載だったからだ。

「俺も昔はやんちゃやったからさぁ~」

 数分世間話をして、暴力団とは無関係と確信した。組織の名前や近隣の親分の名前を出しても、それっぽいことは言うが、返答が曖昧すぎる。調べてみるとごく最近刺青を入れたらしく、暴力団に対して憧れを持っている人間と分かった。

ヤクザと原発福島第一潜入記 (文春文庫)

鈴木 智彦

文藝春秋

2014年6月10日 発売