作業中、マスクが交換されなかった事実を根拠に、1Fの汚染は少ないと思い込んでいた。スクリーニングの仕掛けに気づいたのは周辺取材を再開してからで、東電やメーカーがグルとなった小細工にすっかり騙されていた。
汗でずぶ濡れになるため、多くの作業員が防水のタバコケースを持参していた。この悪習は、7月25日、IAEAの天野之弥事務局長が1Fを視察するまで続いた。東芝の放管ならともかく、IHIの現場スタッフに「知らなかった」とは言わせない。タバコを吸っている最中、よく監督が話しかけてきたし、当日、朝のミーティングでは、現場監督が「今日からタバコは絶対駄目」と告げにきていたからだ。
「休憩はいい。事務所でも。でもタバコはシェルターに戻ってからだ」
「いつもみたいにマスクは外してもいいんですか?」
あえて監督の口から言わせるため、私は質問した。
「駄目だ。それやったら待機にすっかんな」
待機とは1Fに出入り禁止ということである。現場でタバコを吸っていた作業員はごくわずかだ。IHIはかねてから指示に従わない作業員を苦々しく思っていたに違いない。天野事務局長の視察は、調子に乗る作業員に規約を守らせるための格好の口実となった。その後、私が見た限り、現場でタバコを吸っていたのは1例のみだ。
ちなみに、7月16日、菅総理(当時)がJヴィレッジを訪れ、作業員を激励した際、私はその場に居合わせた。
「あんだけボロカス言われて辞めねぇんだから、根性あるよなぁ」(同僚の作業員)
Jヴィレッジのロータリーに駐まった黒塗りの高級車の一団は、なにひとつ現場を改善しなかった。
バラツキのあった危険手当
勤務から数日後、作業を終えてJヴィレッジからのバスに乗ると、5分ほど走った交差点のフェンスに横断幕があった。30メートル近い幅があり、大きな文字で「作業員のみなさん。毎日ご苦労様です」と書かれている。調べてみると、神道政治連盟という団体だった。
「あれ、毎日やってるんですか?」
「毎日じゃないんだけど、けっこう来てる。さすがに雨の日はみかけないけどよ。なんだかんだ言って嬉しいよな」
「俺たちのことも、東京のハイパーレスキューみたいに取り上げてくんねぇかな」
同僚たちがタバコを吸いながら冗談を飛ばす。
「俺たちも涙の会見したいっすね」
同僚に訊くと、フクシマ50の一人が笑いながら言った。
「東京の奴らは宣伝が上手いからなぁ。俺たちは無理でしょ。田舎モンだし、それに会社をクビになっちゃうもん。でもハイパーレスキューの隊長はなんで泣いたんだろう。そのとき俺も現場にいたけど、あれ、どうしても理由がわかんない」
「事情があるんでしょ、言えないワケが」
「でも公務員はいいよ。うらやましい。自衛隊のヤツに訊いたら、危険手当、俺たちの日当より数倍高かったもん」