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社会人デビュー戦で目にした宮川のタックル

 そんな紆余曲折を経て、ようやく迎えた2020年。

 舞台は変わり、社会人リーグになった。コロナ禍による予想外の船出にはなったが、同じ赤いユニフォームに身を包んでいても、もうそこにしがらみはないはずだ。

©文藝春秋

 この日、フィールドに立った宮川の体つきは、大学時代と比べてかなりシャープになっていた。体重は変わっていないと言うから、鍛え上げてきたことが窺える。彼が事件の後、ここまでコツコツと努力を積み重ねてきたことが伝わってきた。

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 試合前にはヘッドコーチが注目選手のひとりとして宮川の名を挙げ、本人も「新人ではありますが、4連覇をしているチーム、日本一のチームの一員である自覚を持ち、貪欲にプレーしていきます」とコメントを出していた。

初戦前の富士通フロンティアーズ(富士通公式ホームページより)

 正直に言えば、移り気な世間はもう、「悪質タックル」問題など記憶の彼方に消してしまっている。宮川にとっても、もしかしたらあの一連の出来事は、過去の記憶になっていないだろうか――と、試合を見るまでは思っていた。

 だが、それはやはり少し違うような気がした。そう思ったのは、冒頭の宮川のサックを見た時だ。

 実はその宮川のファインプレーが終わった後、一瞬ゲームが止まった瞬間があった。

 実際は宮川のプレースピードが速すぎたため、クオーターバックがボールをファンブルしたのか、パスを失敗したのか審判団が判断できず、ビデオ確認するためだったのだが、静まり返ったフィールドで、審判団が顔を寄せ合わせている姿を見ると、嫌でも観客たちの頭にはかつてのシーンもよぎったのだろう。