なかには「なんだかドキドキするね……」という言葉を漏らすファンもいたが、その「ドキドキ」という言葉の響きには、複雑な意味が込められていたように聞こえた。
フィールド上では宮川に先輩選手が、「いまのは大丈夫」というように駆け寄り、小さく腰のあたりでタッチをしている姿もあった。
超ビッグプレーに対して、宮川のリアクションは……
しばらくの中断の後、審判の判定が下り、サイドラインに下がった宮川には、チームメイトから手荒い祝福が行われた。
ルーキーのデビュー戦での超ビッグプレーである。普通なら、大きく吠えたり、感情を爆発させるようなシチュエーションだったはずだ。
だが、そこでも宮川は感情を表に出すことはなく、ただ淡々とその祝福を受け入れていた。不自然なまでに、クールで、落ち着いていた。老成しすぎていたと言ってもいいかもしれない。
そんなシーンを見て思ったのは、やはり振り返って2年前、弱冠20歳の青年に降りかかった苦難は、個人に背負わせるにはあまりにも重すぎるものだったように思う。事件そのもの以上に、その後も周囲の大人たちによって振り回され続けた。それによって「フットボールをする資格がない」という発言までさせてしまった。
ようやく所属も変わり、学生から社会人へと立場も変え、宮川はこうしてフィールドで、忖度なくプレーできるようになった。少なくとも、プレーの上では、この試合で見せた会心のタックルに「躊躇」はなかったように思う。
だからこそ次は気兼ねなく、素直に感情を爆発させる瞬間を期待したいと思った。
この試合に48-3で圧勝した富士通フロンティアーズは次節、11月7日に優勝候補のひとつであるIBMとの大一番を迎える。
次節、宮川はそこでどんな表情を見せてくれるだろうか。