1ページ目から読む
5/8ページ目

 また、ひとつひとつの言葉に重みがあり、鬼に勧誘された際に毅然と言い放つ「老いることも 死ぬことも 人間という儚い生き物の美しさだ」や、後輩たちにかける「心を燃やせ」「胸を張って生きろ」といったメッセージは、作品の中でも重要なキーとなっている。

「有言実行」は少年漫画において大切な要素であり、『ONE PIECE』にせよ『ジョジョの奇妙な冒険』にせよ、いわば宣言とも取れる強いセリフが、主人公を主人公たらしめている。煉獄さんの「ここにいる者は 誰も死なせない!」もまた、彼らの魂を継承するセリフといえよう。

 性別や年齢を問わずに高い人気を誇る『鬼滅の刃』だが、このように、各キャラクターたちには人々の心をつかむ“属性”が付加されており、周到に計算された印象を覚える。

ADVERTISEMENT

 オリジナリティがしっかりと担保されたうえで、“ヒットの法則”とでもいうべき魅力的なキャラクター造形を行っている部分は、吾峠氏の中に蓄積された深い漫画の知識を感じさせる。

 ただ、「王道のキャラクター」だけにとどまらないのが、『鬼滅の刃』の恐るべき才能。本作の中には、大きく分けてふたつ、異質な存在がある。それは、主人公の炭治郎と鬼たちだ。

主人公にして異質な存在、炭治郎

おなじみ主人公の竈門炭治郎。©吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

 主人公の炭治郎は、「家族を皆殺しにされた」「妹をもとの体に戻したい」という“宿命”を背負ったキャラクター。

 とにかくまっすぐで努力家で、窮地に陥った際に“秘められた力”が発動するなど、ザ・主人公的な要素は多数持っているのだが、細かく見ていくと、かなり異端な人物だ。そしてそれは、『鬼滅の刃』の根底を成す部分でもある。

 まず大きな部分は、炭治郎の行動理念が「鬼を倒す」ではないこと。彼が刀をふるうのは、「自分と同じような被害者を出さないため」だけではなく、「鬼になってしまう人を出さないため」でもある。

©吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

 つまり彼は、私怨ではなく悪鬼滅殺の大義でもなく、最初から慈愛の精神で動いているのだ。鬼の祖である鬼舞辻を倒すことは目標にしているが、そもそも彼には「鬼=敵」という概念がない。炭治郎の中にあるのは「鬼=被害者」という意識だ。