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「わしボケナスのアホ全部殺すけえのお」 1999年池袋通り魔事件犯人を死刑前に支配した“怒り”

『私が見た21の死刑判決』より#6

2020/11/14

source : 文春新書

genre : 社会, 読書

note

「むかついた。ぶっ殺す!」

 男の犯した罪は、池袋で通り魔となったことだった。

 1999年9月8日、正午前。

 平日とはいえ、人通りの絶えることのない東京・池袋駅東口の繁華街。その一角にある「東急ハンズ」の正面玄関前。すぐ脇には、「サンシャイン60」へ通じる地下通路のエスカレーターが隣接している。

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 ここに、右手に刃渡り約14㎝の包丁、左手に金槌を持った当時23歳の男が、突如立ちはだかった。

 男はそこで、

「むかついた。ぶっ殺す!」

 とだけ叫ぶと、まず目に止まった若い男女のアベックを追いかけ出した。異変を感じた二人はすぐにその場から逃げ出すと、替わってサンシャイン60のエスカレーターからこちらに昇ってきた老女(当時66歳)の左胸を包丁でひと突きする。女性は即死。

 その直後に、彼女といっしょに歩いていた夫に向かって、金槌で頭を殴打。庇う手を包丁で斬り付ける。

 これを見ていた別の通行人が池袋駅方向に逃げ出すのを見ると、すかさず追走。そのすれ違い様に、当時29歳の女性の左腰を包丁で刺す。刺された女性は、夫に支えられながら、東急ハンズ向いのパチンコ店に助けを求めるも、搬送先の病院で死亡している。

 さらに男は、そこから繁華街を疾走しながら、手当り次第に次々と通行人を急襲。不測の事態に高校生を含む6人が10日から2週間の怪我を負った。

 やがて男は、異常に気付いた別の通行人複数によって、池袋駅前で取り押さえられ、その場で警察官に逮捕された。

 世にいう「池袋通り魔事件」だった。