文春オンライン

「わしボケナスのアホ全部殺すけえのお」 1999年池袋通り魔事件犯人を死刑前に支配した“怒り”

『私が見た21の死刑判決』より#6

2020/11/14

source : 文春新書

genre : 社会, 読書

note

造田博の生い立ち

 造田博は事件を起こす4カ月前から、東京・北千住の新聞販売所で新聞配達員をしていた。

 それが、事件発生7日前。朝刊の配達時刻に遅刻してしまった。勤め先で初めてのことだった。これをきっかけに、販売所の店長からの勧めもあって、彼は初めて携帯電話を手にする。

©iStock.com

 そして、事件5日前の深夜のことだった。突然この携帯が鳴り響く。

ADVERTISEMENT

 ところが、電話に出たところで、相手は何もいわずに切ってしまった。無言電話だった。

 この出来事に激昂した彼は、アパートの玄関ドアに書き置きを張り付け、その場から姿を消している。そこにはこうあった。

『わし以外のまともな人がボケナスのアホ殺しとるけえのお。

 わしボケナスのアホ全部殺すけえのお』

 出身地の岡山の方言で綴られた書き置きだった。

 岡山で暮らしていた高校生の頃だった。

 造田の両親は、ある日、忽然と姿を消した。ギャンブルに興じた挙げ句に嵩んだ借金が原因だった。

 独り取り残された実家には、連日のように金融業者が取り立てに押し寄せる。生活にも窮した造田は、やむなく高校を中退。広島にいた兄を頼り、そこから職を転々としながら上京、事件の4カ月前に新聞販売所にたどり着いていた。

 そして、置き手紙を残して失踪した造田は、事件を起すまでの4日の間を、赤坂のカプセルホテルで過ごしていた。凶器となった包丁と金槌は、犯行現場の東急ハンズ池袋店で買い求め、そして、事件を引き起こす。