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 そうして、マカロンは、フランスからやってきた二つのブランドの努力で、日本人の生活に入り込んだ。

 ダロワイヨのマカロンが20年間あまりも受け入れられなかったのは、日本人にとってなじみがないお菓子だったからだ。マカロンは、卵白を泡立てたメレンゲとアーモンド粉、砂糖にフレーバーの材料を加えて混ぜ、オーブンで焼いた生地に、クリームを挟んでつくる。マカロンという名前も、フレーバーの味が凝縮されたその魅力も、知られていなかった。

 日本人が、多彩な外国のお菓子を積極的に受け入れるようになったのは、イタリアから上陸したティラミスブームがきっかけだったことは、ティラミスの項で書いた。それはどんなものだったのか。

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スイーツの多彩化

 代表的なものを挙げると、タピオカ、ナタデココ、パンナコッタ、ベルギーワッフル、カヌレなど、味や形だけでなく、食感も多彩なことに気がつく。考えてみれば、和菓子も食感は多彩だ。モチモチのだんご、カリカリのかりんとう、サクサクの皮にねっとりしたあんこが入った最中。パリッとした草加せんべい。外国からやってきたスイーツだって、クニュクニュ、クリーミィー、サクサク、パリパリ、フワフワと、さまざまな食感があってもいい。マカロンには、それまでブームになったスイーツと異なり多彩な色と味がある。

 グリーン、ピンク、茶、黄色、白……今まで見たことがなかったお菓子の色もある。それまでにも、B-Rサーティワンアイスクリームなど、少女たちの間で流行るスイーツには、カラフルなものもあった。しかし、マカロンは大人も楽しむ。バラエティの豊かなマカロンが、大人の女性の間でブームになったことは、日本人の嗜好が変わったことを示している。

 ティラミスで始まったスイーツの多彩さを楽しむグルメ化は、マカロンで一つのピークに達した。その後はカラフルな色の食べものの人気が加速していき、10年後のインスタ映えブームに至る。トッピングがかわいいドーナツやカップケーキ、かき氷など、色彩という楽しみ方が強く出始めるのである。

©iStock.com

インターネットが食文化に影響を及ぼした?

 スイーツだけではない。食事でも、カラフルな色の大根やニンジンがサラダに、加熱しても色があまり変わらないパプリカやズッキーニが、パスタや煮込みなどに好んで使われる。「食卓に色を!」と誰かが言ったかどうかはわからないが、その傾向が、ブログが普及し、SNSでの発信が活発になった時期と重なっているのは、インターネット文化も影響しているのかもしれない。ターニングポイントのブームだったゆえ、マカロンは特別なお菓子だと言える。