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手抜き料理に罪悪感を感じるのはなぜ? 主婦を苦しめる“手料理信仰”が生まれた理由

『何が食べたいの、日本人? 平成・令和食ブーム総ざらい』より #2

2020/11/16

 時短、ミールキット、つくりおき……女性の社会進出が進み、夫婦共働きの世帯が珍しくなくなるにつれ、日本の家庭料理は大きく変容を遂げてきた。

 とはいえ、その変容はネガティブなものではなく、料理そのものへの思いが簡素になっているわけでもない。手料理を家族にふるまいたいという思いはいつの時代も通底しているのだ。日本の美味しい歴史と思い出を振り返った『何が食べたいの、日本人? 平成・令和食ブーム総ざらい』から、家庭料理の変遷、そしてそのあらましを引用し、紹介する。

ル・クルーゼ好き世代

 2000年代半ば、食卓の周りでは、カラフルな色やポップなデザインが流行していた。一つはキャラ弁。それからマカロン。そしてル・クルーゼの鍋。おしゃれで楽しい流行は、もしかすると1970年代半ばに生まれた団塊ジュニア世代が、結婚や出産をする年齢になったから起こったのではないか。2005年、1975年生まれは30歳だった。

 なぜ団塊ジュニアとポップな食の流行を結びつけるかというと、親子ともども戦後生まれのこの世代はおしゃれに敏感で、次々と新しい流行を生み、あるいは流行にのってきたからだ。1990年代、彼女たちは女子高生ブームの中心にいた。ポケベルを使いこなし、たまごっちを育て、使い捨てカメラで日常をパチパチ撮っていた。

 日常をイベントに変えることが得意な彼女たちが、結婚や出産をする年齢になった2000年代。新しいスタイルの生活雑誌が次々と創刊された。2003年にライフスタイル誌の『クウネル』(マガジンハウス)と『天然生活』(地球丸/扶桑社)が、2005年に『うかたま』(農文協)が創刊されたほか、2004年に創刊された生活情報誌『Mart』(光文社)が、「もっと生活遊んじゃおう!」のキャッチフレーズで、台所周りの商品を紹介し始める。そんな中、ル・クルーゼの鍋が脚光を浴びた。

 ル・クルーゼの鍋の最大の特徴は、カラフルなカラーバリエーションである。赤にオレンジ、ピンク、青、緑……。見た目だけではない。1925年にフランスで生まれたこの鍋は鋳物ホーロー製で熱伝導率がよく、ふたが重いのでご飯も炊ける。煮込み料理や蒸し煮にも威力を発揮する。おしゃれな料理が簡単にできることも、人気を後押しした。

ル・クルーゼと70年代に流行した無水鍋の共通点

 ただし、直径20㎝のもので約2.8㎏と重く、ガラス質のホーローは、落としたり衝撃を与えると欠けたりヒビが入ったりする危険がある。空焚(からだ)きも厳禁と、取り扱いには注意を要する。

 私があの頃、団塊ジュニア世代の友人から「火の通りも早いし、ご飯もおいしく炊けるんです。料理が上手になりますよ、ぜひ!」とすすめられたのに買わなかったのは、この使い勝手の悪さのためだ。テフロン加工のフライパンですら、「ゴシゴシ洗えないから不便」と、鉄のフライパンに買い替えたほど。そんな私が触れば、美しいル・クルーゼの鍋があっという間に傷だらけになってしまう、と思ったのだ。

©iStock.com

 幸い、家には母が「昔買ったけど使わなかった」と譲ってくれた、5層構造のステンレスでコーティングした無水鍋があり、ル・クルーゼの鍋みたいに蒸し煮や煮込みに重宝していた。銀色なので、かわいくもなんともないが……。

 興味深いことに、無水鍋は団塊ジュニアが生まれた1970年代に流行していた。同じ頃、花柄の鍋やポットも流行。あの頃人気だったかわいらしさに便利さも兼ね備えたのが、ル・クルーゼの鍋なのだ。親子2代で、生活を楽しめる流行を体験している。