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手抜き料理に罪悪感を感じるのはなぜ? 主婦を苦しめる“手料理信仰”が生まれた理由

『何が食べたいの、日本人? 平成・令和食ブーム総ざらい』より #2

2020/11/16
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グルメな共働き世代が増えて再ブームを迎えた

 冷蔵保存の常備菜が中心の2度目のブームが来た2010年代は、子育て期の共働き女性がふえた時代である。「家のことをちゃんとするなら」と言われる女性は少なくなっただろうが、彼女たち自身が、昭和の共働き主婦と違ってグルメになっている。

 1980年代はファミレスがふえて外食は日常化しつつあったが、まだ今のようにバラエティ豊かな選択肢があったわけではなかった。しかし、平成に大人になった今の現役世代は、インド料理やイタリア料理などさまざまな外国料理も食べ慣れている。デパ地下やスーパーなどで、バラエティ豊かな総菜を買って帰ることもできる。ふつうの人がふつうにグルメな時代になったのだ。だから、常備菜も同じものばかりでは飽きてしまう。そんな時代に、つくりおきブームは再び起こったのである。

©iStock.com

 つくりおき料理のレシピ本が書店の棚にずらりと並ぶきっかけは、2011年に刊行され、2014年の第1回料理レシピ本大賞 in Japanの料理部門大賞を受賞した『常備菜』だろう。表紙に「作って冷蔵庫にストックしておけばごはんにお弁当にすぐおいしいおかず109」と銘打ってある。

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 紹介されているのは、「ひき肉のソース炒め」「いわしのしょうが梅煮」「かぼちゃのペースト」「ゴーヤのしょうゆ漬け」「豆のマリネサラダ」など幅広い。中にある◯◯漬けやマリネは、日本やヨーロッパの主婦たちの間で受け継がれてきた常備菜である。いつの時代も主婦は忙しく、だからこそ常備菜を使い回す工夫もしてきた。その知恵に今のトレンドを含めた提案を行っている。

「何とか手作り料理を食卓に載せたい」という気持ち

 料理レシピ本大賞 in Japanではその後も、つくりおきブームを反映した受賞作が続いた。2015年には料理部門に『決定版! 朝つめるだけで簡単! 作りおきのラクうま弁当350』(平岡淳子、ナツメ社)が入賞。2016年は『つくおき』(nozomi、光文社)が料理部門大賞を受賞している。

 つくりおきの流行は、やがて完成した料理ではなく、下ごしらえした肉を冷蔵や冷凍をしておくものに移り、2018年頃に一度鎮静化した後、2019年から下味冷凍が再び流行している。知恵のある新しい提案をすれば流行るのは、それだけふだんの料理の準備を簡単にしたい人が多いのだろう。

 つくりおきレシピの流行は、忙しくて料理する余裕がない人が、それでも何とか手づくり料理を食卓に載せたいと考えるからこそ生まれたものだ。外食することも総菜を買うことも簡単にできる時代に、たくさんの多忙な人たちがそれでも手づくりをしようとがんばっている。それは頼もしいことではないだろうか。

手抜き料理に罪悪感を感じるのはなぜ? 主婦を苦しめる“手料理信仰”が生まれた理由

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