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「オラッ! オラッ! 殺されたいんか?」白昼、公園から罵声が聞こえてきた街の“1泊1200円”宿に泊まってみると……

『ルポ西成 七十八日間ドヤ街生活』#1

2020/11/21
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1泊1200円の宿へ泊まってみると……

 三角公園のすぐ近くには西成警察署がある。かつての暴動で火炎瓶をバンバン投げ入れられたこの警察署。いまとなっては必要なさそうだが高い塀で四方が囲まれている。

 その塀の目の前に「アスパラガス」というドヤがあった。料金は1泊1200円と日本にしてはかなり安いので入ってみる。

別のドヤ。こちらの家賃は月3万8000円だった(筆者提供)

「兄ちゃん、はじめてか? ここは簡易宿泊所いうてな、ふつうのホテルではないんや」

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「ええ、ドヤというんですよね。月単位で泊まらないとやはり難しいでしょうか?」

「普段は断っているけどいまは閑散期や。身分証明書のコピーは見せてもらうけど大丈夫か?」

 指紋で曇ったメガネをかけたフロントの中年男は少し笑いながらそう言った。私は背中に大きなバックパックを背負っている。キタやミナミに観光で来る人間には見えないとしたら、やはり訳アリの人間に見られてしまうのだろうか。自分は優しい顔立ちと言われることが多くヤクザという柄でもない。となると覚せい剤で服役し、刑期を終えてシャバに出てきたものの行き場もなく、とりあえず西成に来てみたというところが相場だろうか。フロントの男の笑いには嘲笑が含まれていた。

(筆者提供)

 あいりん地区の一部のドヤは、いまや単なる安ホテルとして外国人観光客や日本人観光客に利用されている。ただ、すべてのドヤがそういうわけではない。生活保護受給者のみが長期で住んでいる福祉専門のドヤもあれば、日雇い労働者が中心に住み着いているドヤもある。その両者が共存しているドヤ、さらにそこへ観光客や出張サラリーマンなども混ざり、なんでもアリの状態と化しているドヤもある。

 アスパラガスには観光客はおらず、生活保護受給者と日雇い労働者が中心に生活していた。館内も部屋もかなり殺風景、聞こえてくるのはドアの隙間から漏れるラジオ中継の音くらいだ。

(筆者提供)

 フロントの男が話すには繁忙期はすべての部屋が埋まることもあるというが、4月~6月は日雇い労働者の求人は少ないため、野宿でしのぐ人も多いらしい。となるといまアスパラガスにいる人間の多くは生活保護受給者ということだろうか。私はいまだ生活保護を受けているという人に会ったこともなければ、受給者がどういった生活を送っているのか考えたこともなかった。

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