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「西成の飯場で良かった」と心から思った。あいりん地区のど真ん中にあるタコ部屋と聞くといかにもヤバそうな匂いがプンプンではあるが、今となってはこれほど安心できる土地はない。あいりん地区といっても徒歩3分の場所にはJRや地下鉄の駅があり、なんばへも歩いて行けてしまう。一般社会とは隔絶されているように見えるが、じつは一般社会が目と鼻の先に感じられる現代的な場所なのである。名前も知らないような山奥の村に連れて行かれ、ダムを造らされるよりは100倍マシだ。

「兄ちゃん、朝飯食った? まだやったら奥の食堂で弁当もらってきいや。ちょっと書いてもらいたい書類があるから食いながら待っといてな」

飯場の夕食は本当に美味しい。食べ放題のバイキング方式(筆者提供)

 飯場のビルに入り右に進むと30人ほどが入る食堂がある。朝食、夕食はバイキング形式になっており、昼は支給された弁当を現場に持っていく。朝食の時間はかなり早く、すでに終わってしまったので、私は昼の弁当を朝食代わりにして食べた。さらに昼用にもう1つ弁当を持って行っていいという。

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「じゃあこの書類にな、書けるところまででいいから書いてくれや。みんなそれぞれ色々あってここに来るからな、余計なことは聞かないから安心し」

筆者が作業した解体工事現場(筆者提供)

 書類に個人情報を記入していく。といっても身分証明書等をあとで見せる必要はないということなので、名前、住所ともにでっちあげでも何も問題はない。市橋達也があいりんセンターで仕事を探し、飯場に潜伏していたというのは彼の手記にも記されている。その事件を機に、飯場でも身分証明書の提示が必須となり、誰でも働けるという状況ではなくなったと聞いていた。しかしザルである。S建設には偽名を使っている人間はもちろんのこと、指名手配犯だっているかもしれない。

「常時70人のポリスがパトロールをしている」

 現在あいりん地区では常に警察がパトロールを行っており、狭い地区のなかにパトカーや自転車に乗ったポリスがウロウロしている。三先通りのシゲいわく、「常時70人のポリスがパトロールをしている」ということだった。70人という数字に根拠はまったくないのだが、「こんなに警察がいたら俺なんていつパクられても分からねえよ」と怯えるシゲを見れば、とにかく多いということは間違いない。

遠くには、あべのハルカスが見えた(筆者提供)

 自転車に乗っているだけで職務質問をされるこの街、逮捕状が出ていれば犯罪者なんて一発で捕まるんじゃないかとも思うが、星の数だけいる労働者。しかも入れ替わりの非常に激しい街のため、アッと驚くような犯罪者がひっそりと潜んでいてもなんらおかしいことではない気がする。