さて前述の辻元清美議員の「(無惨様のように)ならないように」という警句であるが、正直なところ菅総理、あんま無惨様っぽくはないと思う。
もともと菅義偉という政治家に対しては官房長官時代の質問をシャットアウトする会見から、左派は「血の通わない権力主義者」、右派は「サヨクからクールに日本を守る保守政治家」といったイメージで各陣営スタンバイしていたのだが、総理になって長くトークするとモゴモゴして「なんか官房長官時代とイメージちがうしょぼいおっさんだな」と右派左派ともに微妙にテンションが下がっているのが現状である。
これは長期政権の安倍総理にしても同様で、なんだか気弱そうなところが一般受けしていたのであって無惨様感はない。
しいて無惨様に似ている政治家を挙げるとしたらやはりドナルド・トランプであろう。74歳だというのに毎日ジャンクフードをバクバク食って190cmの体格をぶんぶん振り回すあの謎の怪物的体力。部下をザクザク切り捨てる自己中心性。コロナにかかっても不死身。
ちなみに『鬼滅の刃』が連載された2016-2020は、トランプが前回の大統領選で共和党のライバルを蹴散らして台頭し、そして大統領になり、反トランプ陣営の総力を上げた最後の決戦に向かう期間とほぼ重な
「えっなんでそんな無理矢理政治にこじつけるんですか? だいたい735票の無惨様と7000万票のトランプでは全然違う存在であり、孤高のギャングである無惨様に対してトランプはポピュリストなのではないですか?」と21世紀生まれの鬼滅キッズは眼鏡をピコピコさせて冷静につっこむかもしれないが、前にも言ったようにこれは政治とマンガを接続して国家安康と君臣豊楽を狐様に祈願するサブカル批評という宗教行事なのでもうちょっと我慢してほしい。
スピンオフストーリーを期待する気持ちは否定できない
最後に、(まだ最後の単行本に収録されていない最終回前後のネタバレをするが)無惨様は最後に鬼殺隊と炭治郎の執念の前についに倒され、炭治郎に概念・思念として取り憑こうとするも、自分の立場をわきまえず最後まで命令口調で「私を置いていくな」というさだまさしの関白宣言みたいなセリフを吐きながら死の混沌の中に沈んでいく。
物語を美しく完結させる見事なラストであるが、漫画史に残るほどキャラが立った悪役なので「惜しい」と感じてしまうのも事実であり、無惨様のスピンオフストーリーを期待する気持ちは否定できない。
関ヶ原無惨様。無惨様VS宮本武蔵。新撰組VS無惨様。どこに置いても不死の悪と歴史の物語が眼前に広がるようでワクワクしてしまう。
初版300万部の連載を惜しげもなく打ち切った作者が描いてくれるかどうかわからないが、想像を膨らませながら無惨様の復活を待っていたいと思う。