六
「さすが家庭科部はお弁当作るのも上手いな」
昼ごはんの時間、千賀子ちゃんと私が弁当のふたを開けたとき、たまたま近くにいた綸が私たちの弁当をのぞきこんだ。
「うちはお母さんが作ってるで」
私が言うと千賀子ちゃんも、
「うちも」
とうなずいた。
「そうなん? 料理習ってるんやし、自分で作ればいいやん。うちは両親とも店の準備で忙しいから、私が自分のもきょうだいのも作ってるで」
「へえ、どんなん? 見せて」
私が言うと綸は自分の机から弁当箱を持ってきて、開けて見せた。
一段目は区切りも何も無く、入ってるのは三つの食材。茹でたホウレンソウが弁当の半分に向きをそろえて敷き詰められ、その上に縦に二つに切ったゆで卵が乗り、もう半分には香辛料が香る、サイの目に切った厚いチャーシューが詰めてあった。二段目は三つのスペースに区切られ、さくらんぼとアボカドとぶどうが詰まっている。
銀紙やバランではなく、食材自体の鮮やかな色彩の違いでお弁当のなかを区切る盛り付け方法は初めて見た。
「カラフルでおいしそうやなぁ」
千賀子ちゃんが声を上げる。
「冷蔵庫にあったものを茹でたり切ったりして、てきとうに自分で詰めてきてん。簡単にできたで」
「綸、早よ戻ってきて弁当食べ! 昼休みのドッヂボールの時間が短くなるやん」
声のする方に顔を向けると、たむじゅんだけでなくグループの子たち全員がこちらをにらんでいる。昼ご飯のとき友達どうしで机をくっつけて島を作るので、だれがどのグループなのか明白になる。綸が私たちのグループへ移るつもりだと思ったのかもしれない。
四月からプール掃除をして、五月には元気にバタフライで泳いでる水泳部員を見ていたから、六月末からの授業でのプール開きは遅いくらいに思ってた。でも実際に入るとプールの水はけっこう冷たいし、わざわざ着替えたり、髪をかわかしたり、思った以上に大変なことが多い。
プールサイドで体育座りして先生の話を聞いている間、さりげなく手を持ってきて、赤い紐をかくす。準備体操のときは右足を左足の前にできるだけ持ってきて隠し、プールに入るまえは左足の方から素早く浸けた。学校にアクセサリーをつけてくるのは禁止だ。見つかったらたとえただの紐であっても、外せと言われるだろう。
プールの授業が終わり、さつきちゃんと一緒に教室へ戻って、ほこりっぽくなった体育服を脱いでいると、陰口を叩くトーンの声が後ろから聞こえた。
「綸の真似やろ、あいつが足に巻いてんの」
振り向かなくても分かる、この声はたむじゅんだ。先生には見つからずに済んだけど、やっぱりクラスの女子は目ざとい。