※こちらは2019年8月号から雑誌「文學界」に連載中の小説「激煌短命」のWEBバージョンです(第一回から続く)。
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(あらすじ)第一志望には落ちてしまったが、久乃の中学生活が始まった。一緒の小学校だったたむじゅんは、入学後すっかり派手になった。たむじゅんと仲が良い朱村綸を、久乃は自分とは別の人間と感じながらも、入学式で交わした言葉が忘れられない。二人は少しずつ距離を縮めていく。
五
教室の外に置いてある七夕の笹の下に、朱村さんがめずらしく一人で立っていた。彼女の周りにはいつも彼女のグループがとりまいているから、英語を教えるとき以外は話しかけにくいから、今はチャンスだ。
「こんなとこで何してんの」
「うち七夕好きやねん」
隣に立ち一緒に笹を見上げると、本当に竹林にいるみたいに、細長くとがって折り重なる笹の葉が、顔に木陰を作った。学校の裏山にある家からもらったという二メートルほどの笹には、クラス全員の願いごとを書いた色とりどりの短冊がぶら下がっている。野生の笹はガーデニングショップで売ってるものと違い、がさがさとして繊細さはなく、葉焼けし茶色くなっていたけど、とがった葉先は確かに願いを叶えてくれそうな、神聖な気配があった。
「おもしろい願いごとある?」
朱村さんはしゃがんで私の短冊を探し当てると、声に出して読んだ。
「“志望校に受かりますように 悠木久乃”。なんやこれ、まだ一年生やのに、受験の願いごと? 他にないん?」
私の短冊を見つけた朱村さんが呆れた声を出すから、私も彼女のを探し当てた。
“ひこぼし様に会えますように♡ 朱村綸”
「小学生なん?」
「うちだけのひこぼし様を、早く見つけたいやん?」
「がんばって、織姫様」
朱村さんは、むんとアゴをつきだした。
「ばかにしてるやろ。久乃の方がまっすぐのハイソなんか履いて、よっぽど小学生みたいやで。なんでルーソー履かへんの?」
「先生に怒られるし、だるだる過ぎるし、足が臭くなるから。でもその巻いてる紐は可愛いと思う」
ルーズソックスを結ぶ赤い紐を指差すと、彼女は笑顔になり足を持ち上げた。
「そやろ、私が考えてんで! ソックタッチの代わりに紐で止めたらイケてるんちゃうかなって」
女子高生の流行りに合わせて、中学生の女子たちのルーズソックスも、“ルーソー”と縮めた愛称で呼ばれ出したのとは反対に、日に日に長く重く厚ぼったくなった。さらに、よりルーズにするために、履く前にソックスの中に丸めた雑誌を入れたりして幅を拡張した。