「あいつがやるとダサくなるから嫌やねんけど。調子乗ってない? チョームカつくわ。ほんまキモい、綸に憧れてるか知らんけどさ。あいつ無表情やし、何考えてるか分からへんよな」
たむじゅんの言葉に賛成するように、グループの他の子たちもいっしょに笑う。綸はトイレにでも行ってるのか、ちょうど不在だ。綸のグループの子たちの足元を見ると、全員が赤い紐をルーズソックスに巻いている。
これは……。
たしかにあの人たちからしてみれば、私がグループでもないのにいきなりメンバーの腕章を勝手につけ始めて、何してんねんという気分だろう。
「カットサロンまで真似してるねんで。昨日の日曜日にエバーグリーンに行ったら、あいつが先に来てるのがウィンドウ越しに見えて、なんか嫌になってそのまま帰ってきてん。あいつの後に切ってもらったりしたら、ダサくなりそうやん?」
「おんなじ髪型にされたりしてー」
イヤーッと女子たちが黄色い声を飛ばすのを背中で浴びて、聞こえてないふうに着替えを続けようとするが、手に力が入らず、机に畳んでおいたブラウスがつかめない。うつむいた私の、切りたての前髪が視界の先で揺れる。
「エバーグリーンはうちらが初めに行き出したサロンやんなぁ? 綸に教えられたんか知らんけど、もう来んといて欲しいわ」
だんだん腹が立ってきた。あの子たちはいったい何様なんだろう。特にたむじゅん、中学に進学しただけで、なんでこれほど私を見下げるようになったのか。
私が近づくと、彼女たちは霧が晴れるように笑うのをやめた。みんな目を伏せたけど、たむじゅんだけが私をにらみ続けている。小学校の集団登校のときに私の前を歩く彼女のランドセルで揺れていたキーホルダーは今も、ハイビスカスを落書きした高校生風の平べったい紺のスクールバッグでゆれ続けている。
私は白くて丸っこい体に細い手足が生えている、つぶらな黒い瞳のキーホルダーを指さした。
「バボちゃん」
「だから何やねん!」
家に帰るとさっそく足の紐をほどくことにした。たむじゅんは仁王像に似てるけど、生きてる分、仁王像より恐かった。美容院のなわばり争いなんて、アホらしと思うけど、私は彼女たちの狙い通り、エバーグリーンには二度と足を踏み入れないだろう。私は綸のグループの子たちみたいに、クラス内の人間関係とか上下関係に、いちいちこだわっていられるほど暇じゃない。今までの勉強に加えて、もうすぐ始まる夏休みには塾の難関高校突破のための学習強化プログラムも申し込んだ。