1ページ目から読む
3/5ページ目

興味本位で始めた八百長

 俺も確固たる覚悟で不正をしようと思ったわけではない。ただ「やってみたらどうなるのか」ということに多少の興味がわいただけだ。胸を張って主張できるような話ではないが、少なくとも俺が前々から八百長に興味を持ち、覚悟を決めてジュンに共犯を依頼したというのはどう考えても事実と違う。

 ジュンがこう言った。

「儲かったら、取り分はどうする?」

ADVERTISEMENT

「儲けが出たら半々でええよ」

「いいのか?」

「俺は見てのとおり、お金にだらしないところがあるで、カネを持ってても間違いなくギャンブルに消えてしまう。そのかわり、俺がカネに困ったときがあったら、ジュンちゃん、貸してくれ」

「分かった」

 こうして、俺とジュンは、不正をスタートさせることになった。

 どうして、このような大それた不正をしたのか――多くのファンや関係者は、そう思っていることだろう。

 後に逮捕され、名古屋拘置所にいたとき、ある新聞記者が面会を求めてきた。そのときも、こう聞かれた。

©iStock.com

「なぜ犯罪に手を染めたのですか。悪いことだとはわかっていたでしょう」

 俺は、裁判が始まる前から、取材ではなく説教を垂れようとするこの記者に、うんざりした印象を持った。

「記者さん、それはひと言で説明しにくいですよ。殺人犯に“なぜ殺したのか”と聞いても、言葉では完全に説明しきれない部分があるのと同じです」

 面会室で正義漢ぶるこの記者に、俺はあえて屁理屈をこねてみせた。

身内に暴力団関係者がいたことによる差別

 動機はカネだったと言えば、それは間違いではない。ただ、それがすべてではない。不正は、少なくとも計画性があったものではなかったし、俺自身も、いまだにその動機が分からない部分があるのだ。

 少なくとも2015年まで、俺は選手として順調に成績を伸ばしてきた。この年3月にSG初出場を決めたころには減量にも真剣に取り組み、仕事に対するモチベーションも高まっていたように思う。身内に暴力団関係者がいるという理由で差別を受けた俺は、SGに出場したとき、初めて周囲を見返すことができたような気がした。