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 すると、ジュンはこう言った。

「そんなことをして、ばれんの?」

「そりゃ、選手が認めやんだらばれへんわな」

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 ジュンはもう俺が「飛ぶ」前提の話をし始めた。

「たとえば、全部1万円ずつ60万円賭けるとする。その場合、どうやったらいい?」

「ジュンちゃんの使ってるテレボートで大丈夫でしょ」

 テレボートとは、ネットで舟券を購入するシステムのことだ。すると、その会話を後ろで聞いていたジュンの妻がこんなことを言った。

「テレボートで張って、国税にばれたらどうする? 大丈夫?」

 同じ公営ギャンブルでは、競馬のネット投票で巨額の利益をあげていたファンが、国税に摘発され、裁判になったという事件が大きく報道されたことがあった。だが、1万円程度の舟券が当たったところで、額は知れている。

 俺はこのとき、ジュンと不正をしてみることに同意した。

なぜ不正に手を染めたのか

 この計画を最初に持ち掛けたのはどちらだったのか。ジュンは検察に対し「不正を西川昌希のほうから持ち掛けられた」と説明し、実際、そのように報道されている。

©iStock.com

 俺は、そのことについて争うつもりはない。俺が持ち掛けたのか、ジュンが持ち掛けたのかということではなく、お互いが不正実行に同意したことがすべてであって、いまさら罪をなすりつけあう意味がないからだ。

金が欲しいだけではなかった

 ただ、事実を言わせてもらえば、俺からジュンに不正を持ちかけるわけがない。もし金が欲しくて、本格的に八百長計画を練り、それを実現しようとするなら、組むべき相手は自分の家族や、もっと信用できる人間がいくらでもいた。ジュンとは儲けを折半する約束をしたが、もっと近い家族と組めば、儲けは総取りなのだ。

 たまたまその日、雑談のなかで「インで本命選手が飛ぶ」という話題になり、「儲かるのか?」と聞かれてから話がどんどん進んで、わずか1時間で「それではいっちょやってみるか」となったのである。