1ページ目から読む
5/5ページ目

高配当が期待できるレースで八百長を行う

 競艇選手は、1日に1回、ないし2回の出走がある。6日間開催のシリーズだと、おおむね10走程度のレース出走が予想されるが、「2回目の1号艇」のとき、俺がわざと4着以下になり、ジュンが俺を外した3連単の舟券を買う。

 名付けて「ブッ飛び」作戦だ。

 なぜ、1号艇のときに不正をするかといえば、俺が1番人気になり、負けたときの配当が高くなることが確実に予想されるからだ。

ADVERTISEMENT

 出走表で「1号艇」になると、ほぼ確実に最内の1コース(イン)に入ることができる。

 そうなれば、レベルの低い一般戦であれば、俺が本命になることは間違いなかった。

 レースでは公平を期すため、予選段階では基本的に、全選手に1~6号艇がなるべく片寄らないように割り振られることになっている。10走以上となると、1号艇が2回は回ってくるため、そのときを狙っていこうという作戦である。

 レース5日目、第7レースでついに2度目の1号艇が回ってきた。

作戦実行の瞬間

 人生初の八百長……ここで俺が失敗すればおそらくジュンが張っている大金を溶かすことになる。

©iStock.com

 もっとも今回は「ブッ飛び」、つまりわざと負けるレースだ。勝つのは難しいが、負けるのは簡単だろうと誰しもが思うだろう。だが、コトはそう単純じゃない。

 たとえば、有力な選手がスタートでインからドカ遅れして負ければ明らかに不自然で、それが2回、3回と続けば公正課に呼び出されて事情を聴取されたり、ファンにも疑念を持たれる。かといって、普通の感覚でレースに臨むと、1マークを回ったところで先行してしまう可能性がある。

 競馬や競輪と違って、競艇ではいったん先行した艇を後続艇が追い抜くのは相当、実力差がある場合に限られる。動力はエンジンだから、馬や人間と違って「疲れて失速」ということがないためだ。もし道中でズルズルと追い抜かれたら、それこそおかしなレースと目をつけられてしまう。

 有利なインコースから先にターンして、できるだけ自然かつ速やかに4着以下に落ち――その難しさは、競艇ファンには何となく理解してもらえるだろう。

競艇と暴力団 「八百長レーサー」の告白

西川 昌希

宝島社

2020年11月2日 発売