1999年作品(115分)/KADOKAWA/2800円(税抜)/レンタルあり

 仲代達矢が映画・演劇界に標してきた功績は大きい。役者としての幾多の名演はもちろんだが、それだけではない。自ら私塾「無名塾」を主宰し、数々の後進たちを育成してきたことも忘れてはならない。

 その役者人生をインタビューさせていただいた最新刊『仲代達矢が語る日本映画黄金時代 完全版』(文春文庫)の取材にあたり、筆者は無名塾での仲代の新人たちへの稽古風景を何度か取材させていただいた。その際、仲代は発声や歩き方など、基礎的なことを徹底して教え込んでいた。無名塾出身の役者たちが、長年に亘って足腰の強い芝居を続けられているのは、早い段階にこうした基礎を叩き込まれているからだと痛感できた。

 そして、こうした師弟関係が前提にあるからこそ、観る側としては映画やテレビドラマでの塾出身者と仲代との演技対決にワクワクしてくる。その最たる作品が今回取り上げる『金融腐蝕列島 呪縛』だ。

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 物語の舞台となるのは、総会屋への不正融資疑惑に揺れるとある大手銀行。主人公の北野(役所広司)ら中堅行員四人は、ニュースキャスターの美豊(若村麻由美)と共に銀行の浄化と再生のため真相究明に立ち上がる。だが、財界の大物で不正の黒幕でもある佐々木相談役(仲代)が、彼らの前に立ちはだかった。

 仲代門下の出世頭・役所が主役を務め、同じく門下生の若村に見守られながら、仲代扮する巨悪に挑んでいく――。物語の役柄の上での対立構造に、「師匠に立ち向かう弟子たち」という役者としてのバックステージの構図も加わったことで、作品としてのスリリングさはより強まっていった。

 飄々として感情を表に出さず、それでいて厳然としたたたずまいの仲代は底知れない恐ろしさを放ち、まるで巨大な壁。一方の役所は、師に比べまだ青さが面影に残り、それだけに、とても敵いそうには見えない。たとえば中盤、北野が佐々木を問い詰める場面では、佐々木の退室後に北野は激しく汗をかいて息切れするのだが、それまで仲代がその場の空気を圧し続けていたためこちらも息が詰まり、役所の芝居に大げさに思えないほどの説得力を感じた。

 そしてこの互いのキャリアの差に裏打ちされた対照的な師弟のシルエットにより、主人公の姿が「とても敵いそうにない強大な敵に抗うヒロイックな存在」として映し出されていく。そのため、終盤に一転して佐々木が北野に追い込まれて醜くうろたえる様が同時に「師匠を超えていく弟子」にも映り、そのカタルシスは尋常ならざるものに。

 弟子を立たせる役割を堂々と引き受けた仲代に、師としての大きさを感じた。