文春オンライン

「あれ、何か取りましたよ」“奇跡”の人サイババの“奇術”を暴いたTVスタッフの証言

『超能力事件クロニクル』より #1

note

東京にもテレポーテーション

 サイ・ババは、東京にも現れたことがあるという。時計のセイコーの社員が、インド旅行をしていた時に、好奇心でサイ・ババのもとを訪れた。サイ・ババは、セイコーの社員が日本の金庫のなかに大事にしまっておいたはずだった新開発の腕時計を、空中から取り出して社員に渡してみせたというのだ。

 この社員が日本に戻って金庫を開けてみたら、腕時計は本当に消えてしまっていた。秘書に聞いたら「髪がモジャモジャした神々しい人」が事務室に入ってきて金庫を開けて腕時計を持って行った、と言われたというのだ。

 哲学教授のデイル・バイヤーステインが、当時のセイコーの社長だった服部正次に直接手紙を書いて事実関係を問い合わせている。服部社長の返事は「サイ・ババにあった社員などいない」だった。そもそも、あのアフロヘアのサイ・ババが、日本の会社の中枢部の部屋に突然現れ、金庫を開けてなかのものを勝手に持って行ったら、それを上司にも警察にも何も連絡もしないという秘書などいるわけがない。

ADVERTISEMENT

死者を蘇らせたサイ・ババ

「ビブーティ出し」以外にも、語られているサイ・ババの奇跡は数多い。

 例えば、1971年のクリスマスに、二人の医師から死亡宣告された米国人をサイ・ババが生き返らせてみせたという逸話が、信者の書いた本に載っている。このケースもバイヤーステインが、本のなかでは匿名扱いにされていた、死亡宣告をしたという医師たちを探し出し、サイ・ババが来たときに患者は本当に死亡していたのかどうかを直接確かめている。医師たちから返ってきた回答は「一度たりとも死亡状態ではありませんでした」だった。もともと死んでいなければ、奇跡の復活もなにもない。

ネックレスを出現させるサイ・ババ(「Sathya Sai International Organization」より)

 ちなみにバイヤーステインの著書『サイババの奇蹟』には、サイ・ババのステージに突然上がって、サイ・ババの親指を引っ張ったら指が抜けてしまった、というスゴイことが書いてある。どういうことかと言うと、サイ・ババは作りモノの指を親指の上に被せていて、そこから灰を出していた、というのだ。この「偽の親指」はマジック界で「サムチップ」と呼ばれている小道具で、ミスター・マリックなどもよく使っている。この事件の後サイ・ババはサムチップの使用を止めてしまい、以後は丸めた灰を指の間に隠し持つようになったという。