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「ショーに来るのは今夜が最後だ」 “人間魚雷”ゴーディが盟友ヘイズと共にした最後の数分間

『忘れじの外国人レスラー伝』より #2

2020/12/07
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山中にポツンとあるゴーディ家

 ちゃんとストリートネームがついているといっても、標高3マイルを超す山奥のこの通りで暮らしているのはゴーディ一家とゴーディの姉とその家族だけだ。山の中腹にゴーディの家が建っていて、そのすぐお隣にお姉さんファミリーの家がある。ゴーディの甥でプロレスラー――全日本プロレスで新弟子生活を体験した――のリチャード・スリンガーもここに住んでいる。

 ゴーディの家族は奥さんのカーニーさんと1歳3カ月になる長女モレンダちゃんの3人。ゴーディと前妻のあいだの子で11歳になる長男のレイくんも、学校が休みになるとお父さんのところに泊まりにくる。ゴーディとカーニーさんのふたりめの子はカーニーさんのおなかのなかにいる。

©iStock.com

 ファミリーがたくさんいると、こんな山のなかでもにぎやかだ。アンクル・テリーのことが大好きなリチャードは、朝から晩までゴーディの家のほうで時間をつぶしている。家族はみんな、叔父貴テリーのあとを追ってプロレスの道を選んだリチャードのことを誇りに思っているようだ。

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家の中では“親父”らしい顔つきに

 家に帰ると、ゴーディはちょっとだけ親父くさい顔つきになる。赤ちゃん用のおもちゃでモレンダちゃんをひとしきりあやしたあとは、男の子用のおもちゃでレイくんと真剣に向き合う。そして、カーニーさんに対しては夫としての接し方をする。

 ――夜、みんなでテレビを観ながらのんびりしていると、いきなりマイケル・ヘイズとジミー・ガービンが現れた。約束もしていないのに、お酒の入った大きな紙袋を下げて、ろくにノックもしないで家のなかに入ってきた。

 ヘイズはあいかわらずお行儀が悪い。冷蔵庫を勝手に開けて、おつまみになりそうな食べものと氷を取りだし、棚からグラスを出して自分で持ってきたジャックダニエルとペプシでコークハイをつくり、リビングルームのカウチにどっかと座ると、土足のままコーヒーテーブルに足を乗っけてそれを飲みはじめた。

 ゴーディの顔がとたんに悪ガキのツラがまえになった。10代のころからの親友で、ファビュラス・フリーバーズの相棒だったヘイズが家に遊びにくると、ゴーディのなかで眠っていた不良少年の魂が目を醒ましてしまうのだろう。全日本プロレスでのタッグ・パートナーのスティーブ・ウィリアムスもたしかにベストフレンドだけれど、ウィリアムスはどちらかといえばゴーディのガキっぽさにブレーキをかける役目も果たしている。

 ゴーディとヘイズの会話は、まるでいじめっ子の中学生のやりとりだ。もちろん、プロレスのことしかしゃべらない。ちょっとだけ年上のガービンは、フリーバーズといるときはもっぱらふたりのおしゃべりの聞き役のようだ。