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ヘイズの“小便攻撃”

 ヘイズが品の悪い下ネタのジョークを連発し、レスラー仲間たちのたわいないウワサばなしをつづけ、3人は山じゅうに響きわたるような大声で笑い、ウィスキーをがぶ飲みした。ヘイズが来るとすぐにカーニーさんは2階のマスター・ベッドルームに上がってしまった。ゴーディがカードテーブルを出してきて「ポーカーをやるぞ」といいだしたので、付き合いきれなくなった筆者は、そおっとゲストルームに避難して寝ることにした。

 ひとつだけ心配なことがあった。それはヘイズの“小便攻撃”だった。マイケル“PS”ヘイズの“PS”は“追伸”ではなく、じつは“ピス(おしっこ)”という意味で、飲み会でだれかが先にダウンすると、ヘイズが酔いつぶれた人間――筆者はその日はお酒は飲んでいなかったが――に上から立ちションをぶっかけるという“儀式”がある。

 どうしたものかと思った筆者は、とりあえず部屋の明かりをつけたままよこになることにした。案の定、しばらくするとヘイズがノックもせずに部屋に入ってきた。もうダメだ、と思った筆者は目をつぶって熟睡しているふりをした。

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「おい、タバコ3本くれ」

©iStock.com

 ヘイズはタバコを切らせてしまったらしかった。「1本くれ」ではなく「3本くれ」というところがヘンに正直で、いかにもヘイズらしかった。筆者は、昼間、町のガス・ステーションで買っておいた赤マールボロを箱ごとヘイズに渡した。

 タバコの箱を受けとると、ヘイズは妙に感じよく「サンキュー・サーThank you, Sir」とていねいにお礼をいって部屋から出ていった。

 遠くのほうで「あのジャパニーズ・ガイ、用心深くて、なかなかスマートなやつだ。電気つけて寝てやんの。He had lights on.」とヘイズが大声で話すのが聞こえた。筆者はこんどこそ安心して眠ることにした。

 親友たちとの楽しいひとときの翌朝、フツーに戻ったゴーディは、床に散らばったグラスや酒瓶、ペプシの空き缶、おつまみ類を食べたあとの皿などをていねいに拾い集め、大きな体をすぼめるようにしてキッチンで洗いものをしていた。

「空港まで送っていくから、しばらく待ってろや」

 悪ガキとお父さんのちょうど中間のような顔をして、ゴーディが大きな瞳でにっこりとほほ笑んだ。

非常ベルを鳴らしていた肉体

 ゴーディは、全日本プロレスのリングでジャンボ鶴田、スタン・ハンセンを下して三冠ヘビー級王座(インターナショナル・ヘビー級王座&PWFヘビー級王座&UNヘビー級王座)を2回獲得し、スティーブ・ウィリアムスとのコンビでは1990(平成2)年、91年、2年連続で『世界最強タッグ決定リーグ戦』に優勝。ハンセンとのコンビでは通算2回、ウィリアムスとのコンビでは通算5回、世界タッグ王者にもなった。日本でのニックネームは“人間魚雷”。“殺人医師”ウィリアムスとの定番タッグチームは“殺人魚雷コンビ”と呼ばれた。