「爆死も覚悟しているので不審な挙動をしないように」
「ピョンヤンに行け」という犯人たちの要求をひとまず収めさせ、福岡に向かうことになった理由をそう説明してくれた。
「よど号」が福岡に着陸することが決まると、彼らは乗客に対して急に居丈高になった。
「乗客の皆さん、この飛行機は油が足りなくて予定通り福岡に着きますが、我々は福岡に飛ぶことを目的にしていない。給油し次第北鮮に向かうが、飛行場内にいる時に諸君が少しでも気勢をあげるようなことがあれば、我々は手製爆弾を持っているので断固として応ずる。我々は当然死を期しているし、爆死も覚悟しているので不審な挙動をしないように」。
なぜこのように克明な言葉がわかったかというと乗客の1人がカセットテープに録音していたからだ。その方は私が取材に訪れた時にはすでに亡くなっていたためテープを回した理由はわからないが、テープの最初の部分がスチュワーデスのおだやかな声で始まっているところを見ると、事件が起きたから回したのではないことは間違いない。未亡人に聞かせてもらったそのテープは2時間で終わっているが、事件後の裁判の際も重要な証拠となっている。
福岡空港での攻防
こうして午前8時59分に福岡空港に着陸すると、江崎は「急いで給油をしてくれ」と地上に要請した。すでに福岡県警本部長のもと発足したばかりの対策本部では、絶対に「よど号」を福岡から飛び立たせないという方針を決定していた。しかし赤軍派の1人がコックピットの燃料計を見ているため、まったく給油しないわけにはいかない。そこで普段やる自動ではなく、手動でわずかずつ行なうことにした。
給油が終わり次第、ピョンヤンに向けて飛び立ちたい江崎は、早急に航空地図を持ってくるよう要請した。やがて棒の先に取りつけられた1枚の地図がコックピットの窓から差し入れられたが、江崎が私にも見せてくれたのは、市販の地図帳からコピーしたとしか思えないただの朝鮮半島の地図であった。平壌の位置を朱丸で囲んであるだけのひどいもので、素人の私でもこれで飛べというのは無茶苦茶だと思った。