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東京の“もっこり”を訪ね歩く、全国のバス停をリストアップ…2020年に発売された不思議な「珍書」を振り返る

2020/12/28

猫の睾丸写真集を出版した著者が手がけた新たな一冊

 2016年に猫の睾丸(金玉)の写真集『にゃんたま』(自由国民社)を出版した芳澤ルミ子が夫のいからしひろきと一緒に『東京もっこり散歩』(自由国民社)を出版し、一瞬何事かと思った。

『東京もっこり散歩』
インパクト抜群の一冊は東京の“隆起スポット”を訪ね歩くという内容

副題は「街中のふくらみを愉しむ」で、東京にある隆起スポットを訪ね歩いた。凹凸などの元々の地形ではなく、古墳や筑山、富士塚など人工物をピックアップ。特に富士塚は富士信仰に基づき、富士山に模して造営されたもので、千駄ヶ谷の鳩森八幡神社富士塚など見ていて不思議である。

バス停だけをリストアップした珍書

 さて東京ではなく、全国が対象だが『全国路線バス停留所総覧』(CHINTAI)が出版された。既に「関東」「関西」「甲信越・北陸・東海」が出ている。鉄道の分野では「全線全駅」を掲載した本が複数出版されているのだが、バスの停留所の本は存在しなかった。なぜなら全国に20万か所以上あるから。版元の宣伝文句「類書なし!空前規模のデータブック」に偽りはない。

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『全国路線バス停留所総覧』
バス停留所名をひたすらリストアップしている。紙で出版する意図が気になるところだ

 路線図はなく、バス停留所名がリストとして掲載されているだけなので、一昔前の電話帳の様な雰囲気だ。全ページ通読する事はないだろう。バス停の統廃合や変更は鉄道の駅に比べても多いはず。一度印刷したらそれで情報が固定される書籍として出版するとなると、すぐに情報鮮度が落ちてしまい、リスクが大きい。こういった日々情報を更新していくデータベースはインターネットのほうが向いている。それでも敢えて紙で出版した結果、珍書臭を放ってしまっている。