今年2020年、世界はコロナ禍に見舞われた。本来、東京オリンピックも開催されていたはずである。オリンピック需要を見込んで、各出版社で沢山の「東京本」が水面下で企画されていた。オリンピックは延期になってしまったものの、多くの個性的な東京本が出版された。
話題を集めた『地球の歩き方』の東京版!
既に大変話題となっている地球の歩き方編集室『地球の歩き方 東京』(ダイヤモンド・ビッグ社)。海外ガイドブックが専門の出版社が意表を突いて出したので、思わず珍書に見えてしまう。『○○の歩き方』というフレーズはしばしばパロディタイトルとして用いられてきている。
また韓国や中国でもこのシリーズとそっくりの海外ガイドブックが出版されている。本家が堂々と本国の首都を扱ったというだけの事なのだが、なんだかニセモノっぽくも見える。しかし従来の『地球の歩き方』と同じく膨大な情報量。コロナのせいで海外旅行に行けなくなってしまったことで、逆にマイクロツーリズムに脚光が集まり、東京在住者の東京探訪としてのニーズを掘り起こした。Go Toトラベルが開始されてからは地方在住者にも重宝されている様である。
コロナ禍で人影が消えた東京の街並み
4月に東京で緊急事態宣言が発令された。普段は人がごった返す過密都市東京だが、外出自粛が奨励されてから、街から人影は無くなった。普段は目にする事のない貴重な都市風景を写したのが初沢亜利『東京、コロナ禍。』(柏書房)である。コロナ発生後、武漢でもドローンによる空撮が流行った。
街に人がいない写真集としては『TOKYO NOBODY 中野正貴写真集』という古典があるが、本書ではコロナ禍で激増したUber Eatsの宅配員やマスクをした人々なども映る。この本が出版されたのは7月下旬。撮影だけでなく、編集、印刷製本など一連の工程を考えると、異例のスピードだ。緊急事態宣言が発動された直後か、あるいはその前に既に企画としてゴーサインが出たのだろうか。出版社の決断力や実行力に脱帽だ。
街歩き本の新機軸
実はオリンピック開催予定以前から『ブラタモリ』の影響もあり、無数の東京スリバチ(凹凸)本や街歩き本が出ている。似たような本が出すぎて、マンネリ気味なのは否めない。そんな中でも少し視点を変えれば、まだユニークな企画が成立するのが分かるのが、荻窪圭『東京「多叉路」散歩 交差点に古道の名残をさぐる』(淡交社)だ。
「多叉路」とは5本以上の道路が集まる交差点のこと。高低の差ではなく、一箇所から分岐する道の多さに着目したところが斬新だ。最多では東村山市と小平市の境界に9つの道路が行き交う「九道の辻」という多叉路がある。なぜこの様な多叉路が出来てしまったのか、江戸時代や明治時代など昔の古地図からその周辺の変遷を紐解いている。国土地理院の衛星写真や360度のパノラマ写真なども掲載されており、編集が丁寧だ。