日本と海外の結びつきに関してのひと味違った一冊
日本と海外との結びつきで、他に興味深いのが、小川誉子美『蚕と戦争と日本語 欧米の日本理解はこうして始まった』(ひつじ書房)。著者は以前『欧州における戦前の日本語講座』(風間書房)を出している。なぜタイトルに「蚕」があるかというと、19世紀中頃にヨーロッパでは蚕の伝染病が蔓延し、絶滅の危機に晒されていたのだが、日本で既に出版されていた『養蚕秘録』がイタリアやフランスで翻訳され、それが養蚕業を救ったからだ。
1848年のハンガリー革命を鎮圧したロシアに恨みがあり、第一次大戦敗北後には周辺国に領土を奪われた戦間期ハンガリーでは、ツラニズム運動が流行り、日本語熱が高まった。この様に世界各国における日本語学習の過程を、それぞれの歴史的背景を交えながら一般向けに書いている。
有事になると立ち現れる“連帯”もしくは“分断”
洋書の翻訳珍書で驚いたのが、David E. Nye、松本栄寿・小浜清子訳『アメリカのブラックアウト変遷史』(オーム社)。1965年北アメリカ大停電や、1977年ニューヨーク大停電、2003年北アメリカ大停電など、アメリカでは歴史に残る大停電があった。著者が停電に興味を持った切っ掛けが面白い。
「普段の生活の流れが断ち切られ、家族がより密接に肩を寄せ合う瞬間であった。停電の間、隣人がより重要な存在となった。私たちは互いに必需品や情報を分け合った」との事。
『災害ユートピア』(亜紀書房)そのものである。実際、1965年の大停電では社会的連帯が見られた。一方、1977年の大停電は「暴動の年」として記憶されている。2020年、アメリカではBLM運動が吹き荒れた。コロナは人々に連帯と分断をもたらしたが、停電でも似たような事が発生するらしい。
「本」に関する「本」が注目を集めた
珍書ウォッチャーとしては、南陀楼綾繁・書物蔵・鈴木潤・林哲夫・正木香子『本のリストの本』(創元社)が非常に参考になった。ある特定の分野の識者が、別の視点で選んだ本のリストの中には、珍書が潜んでいる事が多い。
本書は古今東西の一風変わった基準で選ばれた複数の本のリストを集めたものだ。「ランボーがアフリカで母親にせがんだ本のリスト」などはそのリストの名前だけで笑ってしまう。「国が価格設定した古本のリスト」は日中戦争時にインフレが始まり、商工省が価格統制として、古本にも定価を固定させた時の本のリスト。「刊行しなかった本のリスト」の中には「ひとりの編集者が予告した本のリスト」がある。実際にシリーズで予告された巻が出なかった例として、リブロポートの『民間日本学者』がある。筆者もシリーズ立ち上げ癖があり、実際後がなかなか続かないものもあり、他人事ではない。
さらに最近、本の雑誌社の『絶景本棚』が人気だ。他人の蔵書や目録、本のリストを眺める事で、自分では気がつけなかった本、あるいは珍書の存在を発見・再確認する事ができる。本記事を読んでいる珍書、本好きの方々にもオススメしたい。