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「目の前のことで精いっぱい」であるメリット

 トレーニング方法や駅伝ファンの声も含めて、いまはあらゆる情報が洪水のように選手自身に押し寄せてくる。科学的トレーニングという名目のもと、効率性を重視し、目標を定めて順序だてた練習が評価される時代でもある。

 だが、いまの羽生に必要だったのは、雑音を消し去って、信頼した指導者やチームメイトとともに目の前の一瞬に集中することだったのではないか。先の大きな栄光よりも、まずは日々の1本のトレーニングに打ち込む――。そんな愚直な姿勢に立ち返れたことこそが、羽生復活の最大の理由なのかもしれない。

©文藝春秋

 本人もこの1年を振り返って、笑う。

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「いまでも『今日はもう体がきついし、休んじゃおうかな』と思う瞬間もあるんですよ(笑)。でも、それをやるとその日の夜に後悔する。それがすごく嫌で。今日もこの後、練習があるんですけど、夜になって『今日も良い練習ができたな』と思えるようにしたい。それを積み重ねたら試合があって、また次の練習が始まって…というのがいまなので。目の前の試合どころか、目の前のひとつのジョグから大事にしていますね」

羽生が今後目指すものは…

 もちろん先のことを全く考えていないわけではない。年始のニューイヤー駅伝では、トヨタ紡織チームとして入賞を目指しているし、トラック種目でも更なる記録更新も視界には入っている。

 ただ、それでも今年1年、試合で結果を残せたことで、目の前の一瞬に全力投球することが先に繋がると体感としてわかったという。

「今日休まなかった1kmや、明日頑張って耐えた2kmは、そのまま試合に活きるんだということが身に染みて理解できました。だから、1回の練習に対して踏ん張れるようになった。ステージが上がって記録が出てきたら、少し先の目標も考えていかないといけないとは思っています。でも、それもひとつの変化かなと思って楽しみたいですね。

 今年になって高校以来、6年ぶりに自己ベストが出たわけですし、ここから先何があっても“自分で自分に期待できる”うちは、いつまでも競技を続けるつもりです。年齢とかじゃない。大学時代も結果的に満足いく結果は出せませんでしたけど、『あの4年間があったからこそ今があるんだ』と思えるように、一日一日結果にこだわっていきたいですね」

 そんな風に思いながら、今日も羽生は厳しいトレーニングで、目の前の1㎞を耐え抜いている。

 いまも変わらず、誰より自分の可能性を信じ続けながら。

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