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1995年地下鉄サリン事件 なぜ理系の高学歴者は、麻原彰晃にのめり込んだのか

『私が見た21の死刑判決』より#15

2020/12/19

source : 文春新書

genre : エンタメ, 社会, 読書

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実行役の違和感

 それで、同じ事件で同時に起訴され、主張や弁護人の足並みの揃ったこの3人がいっしょに裁かれることになった。

 因に、麻原の専属の運転手も任せられていたという杉本繁郎は、最終学歴が岡山商科大学卒。なにも学歴で人をみてはいけないが、とはいえ、同じ法廷に肩を並べる豊田と廣瀬はいつも黒のスーツでやって来るのに、杉本だけはなぜかジャージやスウェット姿だった。そんなところにも、生い立ちの違いから、教団内での処遇や、犯行の役割も異なっていたことを感じさせていた。

 しかし、それにしても、だった。

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 いったい、どうして理科系の高学歴者が、麻原彰晃という男にのめり込んでいったのだろうか。彼の説く世界の、どこに彼らを魅了するものがあったのだろうか。

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 それに、いわば理科系のエリートともなれば、教団組織の中でも上層部に位置する幹部クラスだった。宗教的なステージも高いとされていた。それが、組織犯罪の実行役として現場で直接手を染める。普通なら考え難いことだった。

 例えば、暴力団の犯罪。幹部は、指示は出しても、直接手を下すことはない。抗争事件にしても、鉄砲玉とか兵隊と呼ばれる、いわば下っ端が事件を起こして、上層部には手が回らないように組織防衛を張る。

 豊田、廣瀬、そして杉本と並べば、それこそ杉本が実行役であるのが自然だった。ところが、彼らはそうではなかった。地下鉄サリン事件の「自首」が認められた林郁夫も、最初に自白した時には取り調べの警察官でさえ、その話を信じられなかったと、法廷で証言している。まさか、エリート医師で「治療省大臣」と呼ばれた教団の幹部に、そんなことをさせるとは思えなかったからだ。