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1995年地下鉄サリン事件 なぜ理系の高学歴者は、麻原彰晃にのめり込んだのか

『私が見た21の死刑判決』より#15

2020/12/19

source : 文春新書

genre : エンタメ, 社会, 読書

note

3人が並んだ法廷

 3人が並ぶ法廷は、この事件の異質さを象徴的に表現していた。

 それにもうひとつ。法廷での彼らはよくしゃべった。それは、おしゃべりという意味ではない。死刑相当事犯の裁判だけに、彼らにはそれぞれ3人以上の弁護人が就いていたが、彼らの質問に対しても、実直に自分のことを語った。麻原や他の共犯者の公判に証人として呼び出されても、臆することなく、事件の全てを語っていった。同じ事件の内容を繰り返し証言するにしても、ぶれることなく、あるいは当時の心境を聞かれても、取り乱したりすることもなく、粛々と理路整然と説明していった。それでいて、必要以上のことは口にしない。一言でいえば、真面目なのだ。時として、麻原の運転手をしていた杉本が、麻原のプライベートを暴露して奇をてらったこともあったが、他2人の理数系の頭の良さと誠実さが伝播していくように、脇道にそれるようなことはなくなっていった。だから、彼らが拘置される東京拘置所の独居房から出されて、毎回法廷で顔を合わせることになっても、決して言葉を交わすことはなかった。決まりをきちんと守って、裁判に臨んでいた。

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 そして、結論から言ってしまえば、彼ら3人は並んで判決を受けた。

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 判決の理由から入って、最後に言い渡される判決の主文。それまで、被告人席に座っていた3人を裁判長が証言台の前に呼び寄せた。

 黒いスーツの豊田、廣瀬、そしてこの日もラフなジャージ姿だった杉本の順番に、裁判長の正面に並んだ。傍聴席からは、彼らの背中が横一列に見渡せる。

 それから、裁判長が言った。