生死を隔てる壁
「被告人豊田、並びに被告人廣瀬を死刑に、被告人杉本を無期懲役に処す」
目の前ではっきりと、それでいて目には見えないのだけれど、明らかな死刑と無期との境界線が引かれた瞬間だった。
人間を3人並べて、お前とお前は助からない、だけどお前だけは助けてやる、そう言ったに等しかった。
3人が並んで判決を受けるというのもぼくにとってははじめてだったが、これほど残酷な瞬間もはじめてだった。
その瞬間、明らかに動揺したのは、杉本のほうだった。生かされることが決められた側が、まるで罪悪感を認識したかのように、顔を真っ赤に膨れ上がらせて、豊田と廣瀬のほうを見た。2人は正面を見据えてじっとしている。杉本は、何かを語りかけたかったのかもしれない。しかし、生死を隔てる壁の向こう側に行ってしまった2人に、届く声などなかった。
95年の初公判以来4年。ずっと同じ法廷の裁判で、その度に幾度も顔をあわせながら、一度も言葉を交わすことのなかった3人の末路は、2人の死刑判決をその場で聞かされた杉本にとってこそ悲痛なものだったのかも知れない。いまにして思えば、2人がいつも着てきた喪服のようなスーツは、最初から壁のあちら側にいる人間の立場や役割の違いを、ずっと暗示してきたようなものだった。
「無常を感じる」
それは、廣瀬が法廷で語ったことだった。
その言葉を、豊田と杉本も聞いている。
「高校3年にあたり、進路を決めるのにいろいろ考えることがありました」
それが宗教に結び付いたのだと言った。
「当時、無常観というものを持って、それが宗教の分野かと思った、ということです」
いったい、彼は何に無常を感じたのだろう。