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一度も身につけなかった “アベノマスク”…菅義偉はコロナ禍に揺れる安倍内閣をどう見ていたのか

『喧嘩の流儀 菅義偉、知られざる履歴書』より #1

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あまりにお粗末な報告内容

 和泉らが「都道府県にちゃんと聞いたのか」とただすと、担当者は「確認しています」と応じた。

 しかし、回答漏れで病床数が「ゼロ」とされた愛知県は、すでに記者会見で病床数を公表済みだった。お粗末な報告内容に出席者はあきれ果て、「もっと情報を吸い上げるようにしろ」と口々に担当者をしかりつけた。厚労省が会議の直後に公表を予定していた「3800床」という数字はお蔵入りとなった。

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 会議に出席していた内閣官房幹部は厚労省のずさんな集計をこう分析した。

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「厚労省に回答しないところが多かったのは、自治体が言いたがらないという側面もある。体制整備が追いついていない状況を報告したくないんだろう」

 和泉のてこ入れで、その後の調査には地方行政を所管する総務省が加わり、事実上仕切るようになった。官邸は動かない厚労省に業を煮やし、他省庁に仕事を振り分けるようになっていった。

 安倍にとって厚労省は「鬼門」(政府高官)だ。消えた年金問題、裁量労働制を巡る不適切データ、毎月勤労統計の不正集計──。第1次内閣時を含め、安倍は厚労省に幾度となく苦汁を飲まされてきた。その負の歴史の最終ページに、新型コロナが書き加えられることになった。

ピント外れの“アベノマスク”

 新型コロナは新年度の4月を迎えても、収まるどころか、猛威を振るう一方だった。

 4月1日の国内の新たな感染者は267人で、1日当たり過去最多を更新した。政府の新型コロナ対策の専門家会議はこの日、東京、神奈川、愛知、大阪、兵庫の5都府県で感染者が増え、医療崩壊の恐れがあると表明した。「きょう明日にでも抜本的な対策を講じることが求められる」。政府への提言内容は、ほとんど悲鳴に近かった。

 対する安倍はこの日の政府対策本部に合わせ、隠し玉を仕込んでいた。全世帯への各2枚の布マスク配布である。