緒方が受けた洗脳的手法の支配
同弁護団はこうした虐待を受けながらも、緒方が松永の元を去らなかったのは、〈長い間、継続的になされた虐待や負い目を負わせて従わせる洗脳的手法の支配の影響が、緒方は他の従業員より強かったからと考えるべきである〉と主張する。そのうえで、前出の松永による虐待の原因と、緒方がそれを受け入れた背景について説明していた。
〈たとえば、前述のマヨネーズをなめさせられた事件の原因は、緒方が、松永と一緒に買い物にいった際に、持ち金が足りなかったことが原因であったが、緒方は、お金を持っていなかった自分が悪いと自分を責め松永の暴力を甘受している。また、前述の太ももの断裂がおきる暴行を受けた事件の原因は、貸金業の社長がワールドに来た時、松永の指示で緒方が対応したところ、その社長から「普通は経営者が表に立つのですが」と批判めいた口のきき方をされたのに対し、怒った松永が緒方に八つ当たりし、「なんで、そこまで言われてくってかからんのか」と言って暴行したものであったが、この様な松永の理不尽な言動に対しても緒方は、「私は自分が悪いからだと松永を責める気はありませんでした」と述べている〉
緒方が両親や親族にカネを無心、寝具の名義貸契約を
松永が地元でも資産家として知られていた緒方家の資産を狙って、緒方に接近したことはすでに記した。
そこで1985年2月の緒方の自殺未遂を機に、翌3月に父・孝さん(仮名)の戸籍から分籍した緒方を実家から連れ出し、当初は先の山形さんの証言に出てきた「大木町支店」として借りていたアパートに住まわせ、続いて翌4月には福岡県久留米市津福本町に、ワールド従業員の武田浩二さん(仮名)を保証人にしてアパートを借り、そこに転居させた。この時期、勤務先の幼稚園を辞めていた緒方が職に就くことはなく、2日に1度は津福本町のアパートを訪ねる松永に養われていた。
だがそうした生活も長くは続かず、86年になると緒方は本社ビルの3階和室で暮らすようになり、事務作業を行うことになった。同時に、みずから複数の金融機関に多額の借金をし、会社の運転資金としている。また、両親や親族らに対しても、カネを無心したり、寝具の購入や名義貸契約を締結させたりした。
こうしたなか、姉妹2人しかいない緒方家では、長女の緒方が家を出たため、3歳下の妹である次女の智恵子さん(仮名)が婿を取り、緒方家を継ぐことになった。
具体的に縁談の話が持ち上がった期日は不明だが、両親が祖父の従兄弟を通じて持ち掛けた見合いを経て、智恵子さんが結婚することになったのは1986年7月のことである。