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その料理をどう食べて欲しいと思い、作っているか

 一方、反対派の意見は少しトーンが微妙に分かれていた。

「ごはんに汁物がかかっているのが苦手」

「味が合わないと思う」

「ごはんと味噌汁が基本あって、そこにおかずとしてつける感覚なので、かけない」

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「シチューがごはんにかかっているのは美しくなく、行儀が悪いと感じてしまう」

「結婚相手がいきなりシチューをごはんにかけたのは不快だった」

 単純に味の組み合わせが好きではない。食卓の定型にはまらない。汚らしく、マナーとしてなっていない。これもマナーに含まれるかもしれないが、作った人に失礼ではないか。なぜやらないかという理由はそれぞれだった。

©土居麻紀子

 味の合う、合わないは好みとして、気になるのは「行儀が悪いから」やらない、という意見だ。味噌汁をごはんにかけることを「ねこまんま」と呼ぶ人がいて、汁かけごはんは、この言葉のイメージが根強い。保育園の先生が、やめようねと言ったのも同じ感覚だろう。もっと言ってしまえば、私がスープをこれほどまでに研究しておらず、保育園で子どもたちの躾をする立場であったら、もしかして同じようなことを言ったかもしれないのである。また、「その料理をどう食べて欲しいと思い、作っているか。もし私がそれをされたら悲しい」というようなことを言う人の意見は、私もなるほどと感じた。確かに、カレーはごはんにかける前提で作るが、シチューはそれだけで食べるイメージで作る。作る人にとってその差は大きい。

“味を混ぜない”日本人

 もともと日本人は、皿の上で味が混ざることをあまり好まない。和食では、飯と汁の椀が並び、奥におかずを置く、いわゆる「一汁〇菜」のような形をとるのが基本だ。室町後期に客のもてなしとして広まった「本膳料理」のスタイルが、懐石料理だけでなく、定食屋や学校給食でも、もちろん家庭でも、いまだに正しい形として守られている。また、弁当などを見ても、味が混ざらないように工夫がされている。近年では料理研究家の土井善晴さんの『一汁一菜でよいという提案』が大ベストセラーとなり、日本人の食スタイルを再認識させる形となった。

 皿の上では味をきちんと分け、それぞれを少しずつ食べて口の中で混ぜる「口中調味」が日本人の食べ方の伝統だ。香りや彩りを添える多種多様な薬味も使って微細な味の差を感じつつ、それでいて美しく食べるという日本人の美意識が、ねこまんまを嫌う気持ちは、決してわからないわけではない。