スープかけごはんは奇異なもの、未体験のもの
同じアジアでも日本以外の国はもう少しおおらかで、タイにしろ、インドネシアにしろ、ごはんを主食として食べる国でも、ワンプレートにごはんと、焼きもの、煮もの、生野菜などもひと盛りにして食べている。お隣の韓国ではごはんと汁は別だが、スープの中にスプーンですくったごはんを入れて食べるようなことをする。また、南インドのミールスと呼ばれるワンプレートの盛り合わせは、銘々がプレート上でおかずとソースを手でこねるようにして混ぜながら食べる。この30年ほどの間にこうした味も外食で体験できるようになった。
それでも、人は、食に対してなかなか保守的なものである。日本のインド料理店でミールスを頼んでいる人を見ていると、いろいろなカレーを順番にごはんにかけ、合いの手のように野菜のおかずなどを食べているケースが多い。日本人にとってはあくまで「インド風幕の内弁当」なのだろう。
食はダイレクトに体の中に入ってくるものだから、自分にとって奇異なもの、未体験のものというのは頭というより心が強く拒否するのだろう。スープかけごはんについても、味そのものというよりは、おそらく長年のうちに身につけてきた食べ方を逸脱するということが気になるのだと思う。
「スープかけごはん」は日本の「裏の食べ方」である
しかし、それでも私たちは「スープかけごはん」をレシピ本として世に出そうというところで一致した。それは、現代の食生活にこの食べ方が非常に合理的であり、それでいて食の豊かさというところを大きく踏み外すことがないという確信があったからだ。
日本の「表の食べ方」が一汁一菜だとしたら、「裏の食べ方」が、汁かけごはんだ。私たちはすでに多種多様な汁かけごはんを、日常的に食している。先にあげた味噌汁かけごはんは代表的なものだが、それはカレーであり、つゆだくの牛丼であり、とろろ汁であり、お茶漬けだ。郷土料理にも、宮崎の冷や汁、江戸の深川飯、奄美の鶏飯、愛媛の鯛めしや愛知のひつまぶしなど、具入りの汁をかけたり、おかずをのせた上からだしや茶をかける食べ方はよく見られる。鶏飯やひつまぶしのような、もてなし料理がルーツのものもあるが、多くは、料理の時間や手間のかけられない農家や漁師が隙間時間で作って食べる、庶民のまかない飯。つまりそれは、忙しい現代人のライフスタイルとも合致するということだ。