調査委の結論「これをいじめと捉えることは広範に過ぎる」
遺族が、Aさんに関する個人情報開示請求を求めた際に、「不存在」とされていた資料の一部として、教員の聞き取り記録の写しが見つかっている。東京都が裁判の中で提出しているのは、Aさんが自殺した後に行われた調査内容の一部に関する写し。都教委の「学校経営支援センター」が教員から聞き取ったもの。A4用紙で60枚になる。遺族によると、それまで開示されたものは、教員の聞き取り箇所の分量はA4で3枚だけ。それもすべてが黒塗りだった。
この調査委員会では「いじめ防止対策推進法」のいじめの定義について、以下のように独自の解釈を示した上で、いじめの有無を判断していた。
「いじめ防止対策推進法上のいじめの定義は、現状において、極めて広範なものとなっていると考えられる。関係性が存在する以上、今回、当該生徒が、同じクラスの生徒や同じ部活動の生徒の言動から、心理的影響を受けていたことは事実である。その結果、当該生徒が、不快感や寂しさを感じたことがあったであろうことは否定しない。だが、いじめ問題に対する指導を行うに際して、学校、教職員が、その端緒として活用する定義としては有用であるとしても、少なくとも、いじめ防止対策推進法に基づき重大事態の調査が行われるに当たってこれをいじめと捉えることは広範に過ぎるのではないかというのが、調査委員会の結論であった」
教訓のもとに変更されてきた「いじめの定義」を踏まえるべき
法律上の「いじめ」の定義は、「児童生徒に対して、当該児童生徒が在籍する学校に在籍している等当該児童生徒と一定の人的関係にある他の児童生徒が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童生徒が心身の苦痛を感じているもの」だ。たしかに、定義は広すぎるという意見があることも事実だ。しかし、調査委はその法律のもとで設置されている。ならば、法に従って判断すべきである。
文科省は1986年以降、いじめを定義した上で調査を行なってきた。そして、いじめ自殺がクローズアップされるたびに、学校現場でいじめを見逃さないように、定義が変更されてきた。児童生徒が命を落としてきた教訓のもとに、現在のいじめの定義がされている。いじめ防止対策推進法ができたのは、2011年10月の滋賀県大津市のいじめ自殺が起きた後でもある。それを踏まえれば、むしろ「広範に過ぎる」との見方は妥当ではないはずだ。