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看取りのコストは「病院」>「施設」>「在宅」

 在宅で死ねることはわかった。だけど、家族のいないわたしには、お金がかかるのじゃないかしら、と不安に感じている人は多いのじゃないでしょうか。家族の人手がたりないところは他人に頼るほかありません。日本の介護保険はもともと独居の高齢者が在宅で死ぬことを想定していません。介護保険の要介護認定制度は、これ以上使わせないという関門のようなものですから、利用料上限を超えて使おうと思ったら自己負担率がいっきょに10割に跳ね上がります。

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 それではいったいいくらかかるのか? 不安に思っているひとも多いでしょう。

 世の中には在宅医療をやってくれる訪問医が各地に増えて、そのなかにはカリスマ訪問医と言われる名医が登場しました。そのひとたちが、ワタシは、ボクは、こんなふうに在宅看取りをやってきた、という経験談を本に書いておられます。徳永進医師の『在宅ホスピスノート』(講談社、2015年)や、小堀鴎一郎医師の『死を生きた人びと──訪問診療医と355人の患者』(みすず書房、2018年)、川越厚医師の『ひとり、家で穏やかに死ぬ方法』(主婦と生活社、2015年)など。医師にはうまい文章の書き手が多く、どの方の本も感動的ですが、いかんせん、ドクターは品がよいのか、お金についてお書きになりません。この死に方、いったいいくらかかったんだろう、と思うのは、決して不謹慎な問いではないと思います。

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在宅死に実際にかかるコスト

 小笠原文雄さんはわたしとの共著、『上野千鶴子が聞く 小笠原先生、ひとりで家で死ねますか?』の後に、『なんとめでたいご臨終』(小学館、2017年)という単著をお出しになりました。とってもよい本です。何がよいって、おひとりさまの在宅死のコストがはっきり書いてあるからです。右の表は在宅の認知症、80代のおひとりさま、上村さん(仮名)の死の直前3カ月間にかかった経費です。上村さんのお宅へは、わたしも小笠原さんに同行しました。そしてあとで、ドクターから「ご本人のご希望通り、ご自宅からお見送りしましたよ」というご連絡をいただきました。

上村さんが亡くなるまでの3ヵ月間の自己負担額

 それによれば医療保険の本人1割負担、介護保険の本人1割負担に加えて、自己負担サービスが月額3万~4万円。これは死の3カ月前に、夜が不安だとおっしゃるので、自費で夜間ヘルパーさんを入れた経費だそうです。総額は月に40万~50万、本人負担は7万~8万程度にすぎません。在宅ひとり死は、お金はいくらかはかかるが、いくらもはかからない、と言ってきたことが、データで裏づけられた思いです。