介護保険は独居の在宅看取りを想定していない、と書きました。終末期のQOL(Quality of Life 生活の質)を高めたければ、自費サービスを入れればよい、というのが、政府の方針のようです。医療保険では禁止されている自費サービスと公費サービスの混合利用を、介護保険では厚労省は積極的に勧めています。『地域包括ケアシステム構築に向けた公的介護保険外サービスの参考事例集──保険外サービス活用ガイドブック』(厚生労働省・農林水産省・経済産業省、2016年)などという報告書には、そういう自費サービスを提供してくれる事業者が、「モデル事業」としていくつも紹介してあります。
終末期は永遠には続かない
もちろん自費サービスは安くありません。介護サービスの公定価格をそのまま10割負担にして提供する事業所もありますし、保険外自費サービスに独自の料金体系を適用しているところもあります。そのモデル事業所のひとつ、ヘルパー指名制で有名なグレースケア機構の代表、柳本文貴さんに、これまでの在宅看取りの事例のうちで、自費負担がもっとも高額だった例を教えてもらいました。最高額で月額160万円だったそうです。
びっくりなさるでしょうか? わたしは逆にほっとしました。なぜなら一日は24時間、1カ月は30日、逆立ちしてもこれ以上は使いようがないからです。柳本さんに重ねて訊ねました。「それはどのくらいの期間、続きましたか?」と。約2カ月半、およそ400万円です。終末期は永遠には続きません。かならず終わりが来ます。この程度の額なら、日本の小金持ちのお年寄りは蓄えを持っているのではないでしょうか。小笠原さんによれば、在宅ひとり死の費用は30万から300万まで。この程度の費用を用意しておけば家で死ねる、そうです。そればかりか、独居で相続人のいない高齢者が死後にかなりの額の資産を遺していると知りました。相続人がいなければ遺産は全額国庫に没収されます。そのくらいなら、生きているあいだに生き金として使っておけばよかったのに、と思わずにいられません。
住み慣れた自分の家に最期までいられる幸せ
小笠原さんからその後、さらに朗報を聞きました。
「ボクね、独居の在宅看取りの経験値があがって、医療保険と介護保険の自己負担額の範囲内で見送りができるようになった」って。
お金のあるひとはあるひとなりに、お金のないひとはないひとなりに。グルメにもA級グルメ、B級グルメ、C級グルメがあるように、高級フランス料理や会席ばかりがグルメではありません。ふところ具合に応じたB級、C級のグルメもあります。何よりあばら家だろうがゴミ屋敷だろうが、住み慣れた自分の家に最期までいられるほどお年寄りにとって幸せなことはないでしょう。