昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

2021/01/20

source : 文春新書

genre : ライフ, ライフスタイル, ヘルス, 医療, 読書

政府も在宅死へと誘導している

 公費負担はどうなるんだ、とお考えでしょうか。政府が在宅死へと誘導する理由は、あきらかにコストが安くつくからです。看取りのコストは、病院>施設>在宅の順で高くなります。平均値はわかりませんが、病院死の場合、死の1カ月前にかかる医療保険の平均診療報酬請求額は100万円を越えるというデータを見たことがあります。高齢者の場合は、高額医療費の減免制度がありますから、自己負担は軽くてすむかもしれませんが、これに差額ベッド代がつきます。臨終期を迎えた患者さんを他の患者さんと一緒にしておくと心理的によい影響がないとして、最末期の患者さんを個室に移すところもあります。また家族が集まって存分に嘆き悲しむためにも、臨終は個室でというのが一般的なようです。病院の個室差額ベッド料はシティホテルなみの値段ですから、死にかけた年寄りがそこで何日も過ごされたら家族の負担も重くなるでしょう。運良くホスピス棟に入院できても、ホスピスも個室が原則、一日あたりのコストは4万円を越します。

©iStock.com

 施設看取りもやってもらえるようになりました。終末期の利用者がいることで、負担が増えるのは施設側。看取りをした施設には看取り加算などの配慮がありますが、利用者は定額を払うだけで特別の料金はいりません。ですが、施設には最初に建設コストがかかっています。その分がホテルコスト(居住費)として利用料には含まれています。個室特養ならホテルコスト7万~8万円込みで月額利用料14万~15万円、サービスコストは実質ここからホテルコストを差し引いた残り、7万~8万程度ですから、上村さんの在宅看取りにかかった自己負担分のコストと変わりません。四人部屋などの多床室だとこのホテルコストはかかりませんので、利用料はほぼ半額になりますが、それなら同じ負担額で自分の家にいられるほうが、ずっと幸せでしょう。おひとりさまなら自宅が全部個室ですから。何より、家賃を払わずにすむ持ち家を保有している年寄りが、わざわざ賃料を払って施設に入居する理由がわたしにはわかりません。居住コストにかかる費用を自費負担サービスに充てれば、もっと手厚いケアを受けられるでしょう。

「在宅ひとり死」に、お金はいくら必要か?

 在宅ひとり死を唱えると、ただちに費用が天井知らずになる、と怖れる人たちがいます。この人たちは、終末期を迎えた高齢者には24時間誰かがはりついていなければならないと固く思いこんでいるようです。たとえ終末期でも、病院や施設で誰かが傍に24時間はりついているなんてことはありません。何時間かおきに巡回に来るだけです。それなら定期巡回の訪問介護を受けるのと同じ。病院ならそのあいだ、モニターにつながれて体調の変化をチェックしてくれますが、アラームが鳴れば看護師が駆けつけるだけ。交替時間毎にくるくる替わる看護師が忙しそうに立ち働く職場で、モニターにつながれて最期を迎えることを、小笠原さんは「病院内孤独死」と呼んでいます。そんなに心配なら家に緊急コールをつけておけばいいのですし、それさえ押せなくなるのが終末期なら、病院並みの呼吸、血圧、血中酸素濃度などの計測モニターが医療センターと直結する遠隔システムなど、今日のテクノロジーならかんたんにできるでしょう。