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《拝み倒して、押し倒して》佐藤健、中村倫也、キムタク、川上洋平…ナイーブな男を描き続ける“神様”北川悦吏子の「俳優起用術」

2021/01/13

豊川悦司に木村拓哉……「手」が美しい男たち

 古くは「愛していると言ってくれ」(TBS系・1995年)で豊川悦司が大ブレイクしたのにも、北川のあて書きマジックが効いていた。身長186cmの豊川に出会いのシーンで木に実った林檎をとらせたり電球を替えさせたり、162cmの常盤貴子との「身長差」を最大限に生かしたときめきポイントが至るところに散りばめられていた。

(「愛しているといってくれ」TBSチャンネル公式サイトより)

 また、「愛していると言ってくれ」のプロデュ―サー・貴島誠一郎氏によると、当初はヒロインである常盤が聴覚障碍者の設定だったそうだ(「Yahooオーサー・木俣冬氏インタビュー」2020年6月7日)。しかし北川が豊川に出演依頼をした際、豊川から「僕が聴覚障碍者ではいけませんか」と提案があった。その場で提案は通らなかったが、別れ際に手を振った豊川の掌が大きくて綺麗だったことから、豊川が手話を操る聴覚障碍者役になったという。そして、本作が豊川の代表作のひとつとなったのだ。

 そういえば、北川ドラマといえば「ロングバケーション」(フジテレビ系・1996年4月期)でピアニストを、「ビューティフルライフ」(TBS系・2000年1月期)で美容師を演じた木村拓哉も、男らしく筋張った美しい手の持ち主だ。ドラマではその手が繊細に鍵盤を奏で、優しく髪を切る様にうっとりしたものだ。北川の選球眼は役者の「手」も見逃さないということなのだろう。

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北川ドラマの天真爛漫すぎるヒロインは“必要悪”

 北川ドラマの男性キャラは、ナイーブで、シャイで、どこか心に傷を負っているような気配を漂わせている。まるで昭和の少女漫画に出てくるようなTHE王子様だ。そしてヒロインも昔ながらのキャラクターになりがちだ。

 バブル世代の人気脚本家が生み出すヒロインたちは、「愛していると言ってくれ」の主人公・紘子(常盤貴子)のように明るく素直で真っすぐで天真爛漫キャラだったり、「ロングバケーション」の南(山口智子)のようにガサツでサバサバした物言いをする姐さんキャラだったり、「オレンジデイズ」(TBS系・2004年4月期)の沙絵(柴咲コウ)のように感情がすぐに顔に出て、キレやすいキャラだったりと、自己主張がはっきりしていて、周りを巻き込むタイプが多い。そして、一生懸命でエネルギッシュなヒロインたちは、絶妙な具合にみんな傷つきやすく、どこか弱い。

(「ロングバケーション」Blu-ray BOX)

 当時からこのヒロイン像には賛否両論あったが、最近では「北川ドラマが時代とズレてきた」と視聴者が感じる大きな要因となってしまっている。女性視聴者にとって男性キャラはあくまでも“妄想上の存在”であればいいが、女性キャラは共感できるかできないかが重要なため、古典的な女性キャラには違和感を持ってしまうのだろう。

「半分、青い。」で永野芽郁が演じたヒロイン・鈴愛は感受性豊かで天真爛漫で、空気を読まずにズケズケとモノを言う無神経さがあることなどから、キャラの説明を簡単にお願いできますか?で、苦手意識を持つ人が多かった。

 しかし、こうしたヒロインは北川ドラマが生み出す男性キャラの魅力を引き出すための“必要悪”のような存在であるともいえる。

「愛していると言ってくれ」の晃次(豊川悦司)、「ロンバケ」の瀬名(木村拓哉)、「半分、青い。」の律(佐藤健)は皆、ナイーブでシャイ、自身の心を守るために他者と深く関わりを持とうとしない。あるいは「半分、青い。」のマアくん(中村倫也)は、ひょうひょうとして、つかみどころがない。

 そんな彼らを覆う薄い壁を突き破り、内側にグイグイ入り込むことができるのは、無邪気で素直でまっすぐで無神経なヒロイン、ということになるのだろう。