埼玉県本庄市の大恩寺は「ベトナム人の駆け込み寺」と呼ばれている。不当な搾取や暴力に耐えかねて逃げ出した実習生や、コロナ禍で生活苦に陥った留学生などが、40人以上も集団生活を送っているのだ。そんな大恩寺ではどんな年越しを過ごすのか、大晦日から元旦にかけて、彼ら困窮ベトナム人と寝食をともにしてみた。

埼玉県北部、寒風の吹き下ろす山麓に大恩寺はある ©室橋裕和

意外にいきいき働いている“逃亡実習生”たち

 本堂の扉を開けると、日本のお寺とさほど変わらない景色があった。畳が敷かれた和室が広がり、ご本尊の前にはお供え物が積まれ、花が飾られている。どこか明るい色彩であることと、ベトナム語の掛け軸に、南国らしさを感じる。

「スミマセン、消毒オネガイシマス」

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 片言の日本語に振り返る。ニット帽をかぶった男性に、手だけではなく全身に消毒薬をシュッシュされ、体温を測られてから上がり込んだ。

同じ大乗仏教だからか、日本の寺とそっくりだ ©室橋裕和
JR八高線の児玉駅から5キロ以上。バスはない。歩いてたどりつく実習生もいるそうだ ©室橋裕和

「まずお参り、しますか?」

 促されて、ご本尊の前に座り、とりあえずは手を合わせた。傍らには、日本で亡くなったベトナム人技能実習生たちの位牌が佇む。なんともいえない気持ちになっていると、彼は磬子をゴーンと鳴らして、僕とともに手を合わせるのだった。

大恩寺からは遠く児玉の街並みが見晴らせる。夜景はなかなかきれい ©室橋裕和
本堂の一角には異国で亡くなったベトナム人たちの位牌も安置されている ©室橋裕和

 本堂の中に置かれた机に案内されると、すぐ別のベトナム人の女性が日本茶を運んでくる。外ではほうきを持って掃き掃除をしている男性たちが見える。奥では夕食の支度をしているようだ。たくさんの若者たちが忙しそうに立ち働いているが、彼らは多くが、いわゆる「逃亡した技能実習生」だ。行き場を無くしたベトナム人が最後に頼る、ここは「駆け込み寺」なのである。

僕の面倒をあれこれ見てくれたフア・トゥアン・ホアさん。暴力から逃れてきた実習生だ ©室橋裕和

 先ほどから僕を世話してくれているフア・トゥアン・ホアさん(37)もやはり、1年以上前に実習先から逃げ出してきた。彼らが集団生活を送るこの大恩寺は、大晦日の夜を迎えようとしていた。