建設会社で「血が出るほど殴られました」
「ベトナムに帰りたくても帰れない実習生や留学生が、このお寺には40人以上います。ついこの前、大使館のチャーター便でたくさん帰国したのですが、またあちこちから集まってきた人もいますから」
そう話すのは大恩寺の住職、尼僧のティック・タム・チーさん(42)。実習生たちにあれやこれや指示を飛ばしながら、年末のお参りに来た一般のベトナム人参拝客に記念のお札を書くのだが、これが漢字で、しかも恐ろしく達筆なのだ。さすがは来日20年である。
大正大学で仏教を学び、在日ベトナム人を見守り続けたチーさんを頼って、口コミで逃亡実習生が大恩寺に集まるようになってきたのは2年ほど前のこと。昨年からはコロナ禍のために解雇されたり帰国できない実習生が急増、彼らを保護し面倒を見るチーさんの姿は、これまでたびたびマスコミにも取り上げられてきた。
そんな大恩寺ではチーさん以下どんな年末年始を過ごすのか気になって訪れてみたのだが、意外にも境内には東南アジアの緩やかさが漂い、ホアさんたち実習生はわいわい賑やかに、そしてけっこう楽しそうに過ごしているのであった。チーさんからそれぞれ役目を与えられ、寺を切り盛りし、訪れる客をもてなす。みんな屈託のない笑顔だ。
「私と同じようなベトナム人、いっぱい来るから」
とホアさんは笑うが、実情を聞いてみれば辛かった日々を少しずつ話してくれた。
ホアさんが勤めていたのは千葉県の建設会社だったという。30人ほどの社員の中で、3人のベトナム人実習生は常にきつい現場に回され、ちょっとしたミスで怒鳴られ、日常的に暴力を振るわれていた。ユンボを使えばすぐ済む土砂運びの作業も、
「ベトナム人だけでネコ(手押し車)で運べと言われて、遅いと殴られる。友達は血が出るほど殴られました」