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しずる村上純が考えるコロナ以降の“幸せな芸人の働き方” 「たった一人に深く刺されば意味がある」「テレビにだけ頼るのをやめた」

2021/01/15

source : 文藝春秋 digital

genre : エンタメ, 芸能, 娯楽, 社会, 読書

note

テレビに出て「売れる」だけがゴールではない

——noteではどのようなことを書かれているんですか?

村上 吉本の養成所に入ってから芸人になるまでの自伝的な話や、コント台本とその解説などをアップしてます。コントの台本やその解説なんて、これまでの芸人だったら出さなかったと思うんです。いわば種明かしなので。この業界には、ある部分で「お客さんには芸で笑ってもらえればいい、舞台裏は見せるものじゃない」という暗黙の了解が、これまではあった気がします。以前だったら、他の芸人さんからも楽屋裏で「村上なにやってんの」って突っ込まれてたと思います。でも、コロナのせいでそれまでの楽屋がなくなった。家にいることが多いから、突っ込まれない(笑)。

——たしかに(笑)。

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村上 でも、お笑いという本業の核をせっかく公開してるので、一つの記事で少なくとも5,000字は書こうと。1万字書くこともざらです。

 そんな活動をしていたら、バッファロー吾郎A先生が「芸人がお笑いのまじめな話をするっておもしろいな」と共感してくださって、僕にZoomでコントのことを聞くという有料トークイベントを開いてくれたんです。それは今、僕らが他の芸人さんに話を聞くトークライブシリーズに発展してます。

——noteから新しい仕事が生まれたんですね。

村上 このコロナ禍で、いったん芸人としてのデフォルトの仕事がごっそりなくなったんですよね。皮肉にもそれで視界がすっきりして、さまざまな新しいサービスに気づき始めました。そして、やってみたら自分の得意なことや好きなことがはっきりしてきたんです。テレビでフリートークするより、自分で企画を考えてコンテンツをつくって発信するほうがむいていると思ったんです。そこに気づいたら、これを全力でやるしかないと集中するようになりました。

©️文藝春秋

——Voicyやnote、配信イベントなどのお客さんって、これまでの仕事で対象としていたお客さんよりも濃くて深いお客さんなのではないかと思うんですけど、マスに向けて仕事をしていたときとの違いは感じますか?

村上 感じますね。これまではマスに向けて売れるのがゴール地点だったんです。でも、その頃の僕の「売れてる」「売れてない」という分け方は一義的だったな、と今は思います。お客さんが多種多様になって、細分化されてきているというのは、数年前からまことしやかにささやかれてはいたと思うんですけど、吉本興業ってお笑いの大手みたいなところがあって、そのせいかそういう価値観が入ってきにくかった気がします。