「人見知りで話しベタで気弱」を自認する新卒女性が入社し、配属されたのは信販会社の督促部署! 誰からも望まれない電話をかけ続ける環境は日本一ストレスフルな職場といっても過言ではなかった。多重債務者や支払困難顧客たちの想像を絶する言動の数々とは一体どんなものだったのだろう。
現在もコールセンターで働く榎本まみ氏が著した『督促OL 修行日記』から一部を抜粋し、かつての激闘の日々を紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)
◇◇◇
バディ交渉術!
かける電話の本数は多くなったものの、それだけでは督促の成績はなかなか伸びない。
入社当時に比べればなんとかマシにはなってきたものの、やっぱり私はお客さまに強く督促をすることが苦手だった。いきなり怒鳴りつけてくるお客さまや、私が女だからと本気で交渉をしてくれないお客さまもいる。回収数字はすぐに頭打ちになった。
(はぁ、やっぱ私みたいな弱そうな女からの電話だと、なめられちゃうのかな~)
落ち込んでどんよりと仕事をしている私の目の前に、二人の男性の先輩が座っていた。入社6年目のH野さんとI村さんだった。
二人は同期で同い年だけど、外見も中身も正反対だった。H野さんは一児のパパで、柔らかな雰囲気の優しい先輩。督促でも穏やかながら論理的な交渉で相手を説得し、入金してもらうのを得意としていた。
一方I村さんは昔やんちゃしてたことのある、ちょっと派手目な外見の先輩。督促もどちらかというと強めに出るタイプだった。
お客さまトレード
「H野、このお客さま、お前向きだから頼むよ」
「了解。じゃあI村君、このお客さまにちょっとガツンとお願いしていい?」
(……ん?)
ふと顔を上げると、目の前の先輩たちがこんなやり取りをしつつ、お客さまの情報をトレードしていた。
そのままこっそりとのぞき見ていると、H野さんは自分の担当しているお客さまの中で、どんなに筋道を立てて話しても入金してくれないお客さまをI村さんに渡し、I村さんは話しているうちに感情的になりつい口論になってしまうお客さまをH野さんに渡していた。
「このお客さまもI村君向きだから、あげるよ」
「H野~、俺、このお客さまにちょっと強く言いすぎちゃった。フォローしてくれる?」
二人は自分では回収できないと判断したお客さまを、自分とは違うスタイルで督促を行っている相手に渡して、お互いに手法を変えて督促を行っていたのだった。
I村さんが持っていたお客さまをH野さんが回収すれば、当然回収をしたH野さんの成績になる。でもI村さんからしてみれば、苦手なタイプのお客さまに割く時間をそれ以外の督促に充てることができるし、お互い得意なタイプのお客さまをトレードすれば二人で回収成績を伸ばしていける。お互いの強みと弱点を把握して協力しながら次々と延滞を解消している二人を見て私は衝撃を受けた。
「そっか~、督促って一人じゃできないんだなぁ」
私は今まで抱え込んでいたお客さまの督促表を並べた。
(この人はダメ、この人はもうちょっと試してみよう……)
そしてどうしても入金してくれないお客さまは、別の男性社員に督促してもらえるよう頭を下げに行った。すると男性が電話しただけで、そのお客さまはすんなりと支払いをしたのだ。しかも私と話す時は終始上から目線だったのに、男性と話す時はなんだかおとなしい話し方になっている。
(なっ……! 男性が電話しただけでコレ!?)