また、事件発生から4日足らずで当局が全国規模の「邪教」摘発キャンペーンを大々的に展開したり「邪教」リストを更新したりした点も、ずいぶん用意周到だ。捜査前から準備を進めていなければ、これほどの速度で大規模なプロパガンダを打つことは困難だろう(ちなみに1999年の法輪功弾圧の場合、彼らが中南海包囲事件を起こしてから摘発の開始まで約3ヵ月間の準備期間が置かれた。信者の人数や事件の性質が異なるので全能神のケースとの単純な比較はできないが、扱いは明らかに異なっている)。
西側各国の主要メディアでも報道された
とはいうものの、張立冬以下の犯人グループが全能神の関係者であることは、中国の国内報道を引用する形ではあるが、イギリスのBBCやアメリカのCNN、ロイター、『ニューヨーク・タイムズ』などの西側各国の主要メディアでも伝えられている。ひとまずマクドナルド事件については、国際的には全能神の関係者の犯行であるとみなす認識が一般的だと考えていいだろう。
※なお、マクドナルド事件について全能神無罪説を主張する論文を掲載した『The Journalof CESNUR』の発行元であるイタリアの学術団体CESNURは、全能神のみならず世界平和統一家庭連合(統一教会)やサイエントロジー、日本のオウム真理教、韓国の新天地イエス教証しの幕屋聖殿(新天地教会)などの社会的に物議を醸かもしている各種の新宗教や破壊的カルト、欧州のネオナチなどにも容認的な姿勢を取っており、欧州社会では彼ら自身に対する批判が少なくない。いっぽう、CESNUR傘下のウェブニュースサイト『Bitter Winter』は、アメリカ国務省や日本の法務省が中国の人権弾圧問題の参考資料として用いるなどしており、国際世論に対して一定の影響力を持っている。マクドナルド事件の真相は、論じる者の政治的立場によって評価が変わる問題だと言えそうだ。
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※本記事は2020年2月6日刊行の『現代中国の秘密結社』(下部リンク参照)の一部を、編集のうえ抜粋したものです。また、著者の安田氏のもうひとつの安田氏の新著、群馬県のベトナム人豚窃盗問題と技能実習生問題の真の闇を暴く『「低度」外国人材 移民焼き畑国家、日本』(KADOKAWA)も2021年3月2日刊行予定!