あまたある新宗教から「邪教」の筆頭格に
そんな全能神が、中国国内で「邪教」として明確に定義づけられたのは1995年である。これは法輪功をはじめとする気功の各派が活動を制限されはじめたのとほぼ同時期だ。中国では1980年代からオカルトブームが社会を席巻していたのだが(詳しくは本書参照)、当局はこのあたりの時期から取り締まりの方針に傾いていったのである。
1995年11月、中国共産党中央弁公庁と国務院公庁が出した「「公安部の“呼喊派”などの邪教組織の調査取り締まりに関する情況および工作意見」の転載発令に関する通知」において、呼喊派とその系統の新宗教である常受教・中華大陸行政執事站・能力主・実際神(=全能神)、さらに門徒会・全範囲教会・霊霊教・新約教会・主神教などのキリスト教系新宗教と、東洋思想系の観音法門の合計11団体が名指しで「邪教」指定を受けた(その後ほどなく、筆者が以前の記事で書いた真佛宗もこれに加えられている)。
この時点では、中国当局はむしろ呼喊派の取り締まりに重点を置いていたとみられるが、その後に当局が「邪教」リストを更新していくたびに、全能神に対する当局のマークは強まっていく。
やがて山東省で全能神関係者によるマクドナルド殺人事件(後述)が発生した直後の2014年6月4日、中国公安部系の組織とみられる反邪教聯盟によって最新の「邪教」リストが発表され、全能神はこのときから筆頭格の扱いを受けることになった。
今世紀に入るころから、中国共産党は「邪教」問題を、新疆やチベットの少数民族独立運動と並ぶ、体制の安定を揺るがす警戒対象であるとみなしている。また、1999年の中南海包囲事件以来、中国ではながらく法輪功が「邪教」の代名詞的存在だったが、2014年6月以降は全能神がこれに取って代わるようになった。
マクドナルドで勧誘拒否の女性を撲殺
現在の中国当局の全能神に対する認識も、当然ながら非常に厳しい。
たとえば、やはり当局系のサイトと見られる『反全能神聯盟網』に2019年5月31日付けで発表された「全能神邪教を防ぐハンドブック」は、全能神が「「世界の終わり」などのデマをばらまいて恐怖のムードを作り出し」、「信徒を扇動して肉親の情を捨てさせ社会から遊離させ、少なからぬ家庭を滅茶苦茶にし、甚だしくは罪なき人間を惨殺して」いる凶悪な破壊的カルトであると再三強調する。
この文書いわく、全能神の主要な害悪とは、暴力による殺人、全財産の寄付、信者と連絡がつかなくなる、家族の崩壊、中国共産党と中華人民共和国政府に対する攻撃、正統な宗教の破壊……などである。なかには、全能神信者の母親が宣教の邪魔だからと生後3ヵ月の娘を殺害した、信仰のために家庭から失踪して15年が経過した、全能神信者になった母親が子どもを勘当したなど、非常に陰惨なエピソードも数多くみられる。