尾崎牛のハンバーグ&カレー
バーばかり書いたので、ラストは、ワインで愉しむ洋食を一つ。柳馬場押小路上ルの『洋食おがた』。店主・緒方博行さんといえば、肉だ。
グランドメニューも充実している上に、その日のおすすめが手書きで記されているから目移り必至だが、ステーキ、ハンバーグ、カレーは外すべからず。こちらの牛肉、聞いて驚くなかれ。宮崎県から届く尾崎牛なのだ。
「赤身に力があって、融点が低いので後味も軽い」と緒方さんが惚れる、この名声高きブランド牛は、ステーキで楽しめるだけでなく、なんとハンバーグにも使われる。合わせるのは、「尾崎さんの紹介で出合った」という同県産の南の島豚。どちらも1カ月熟成し、同割で合挽きに。漆黒のデミソースに覆われた肉の塊を大きくカットしたら、大胆にガブリといっていただきたい。気持ちいほどの弾力に続いて、旨みがドッパーと口中を満たし、馥郁たる香りが広がる。デミソースにも尾崎牛のスジ肉の旨みがたっぷりで、ほろ苦さと甘みのバランスが素晴らしく、コクは豊かで深い。
さて、締めはビーフカレーだ。ここにも尾崎牛が惜しげもなく使われる。脂で野菜を炒め、ベースのスープはスネ肉でとるのだそう。一口食べれば、その牛肉由来のリッチな旨みに陶然となるはずだ。
締めまで赤ワインを欲する肉系洋食として紹介するつもりだったが、実は先日、フードコラムニストの門上武司さんからこんな話を聞いてしまった。今夏より、話題の静岡・焼津の『サスエ前田魚店』から定期的に駿河湾の幸が届いているのだそうな。特に初夏のアジは素晴らしく、そのフライが感動的だったと興奮気味に教えてくれた。写真を見たら断面がレアだった! うー、食べたい。来年の初夏までお預けとは……残念すぎる。けれど、この時季から揚がるキンキや寒鯖なんかも駿河湾から届くのだろう。それらを楽しみつつ、初夏を待とう。
実は朗報がもう一つある。『洋食おがた』で、とびっきりのサービス精神を発揮していた野呂和美さんが、この夏、独立。二条に『リストランテ野呂』をオープンさせた。名物は、メンチカツ。デミグラスソースとバルサミコ酢の……いや、これ以上は書くまい。「あまから手帖」11月号の発売前だった。10月23日発売、詳細は115ページに。イタリアンだが、ちょいちょい洋食もオンメニュー。むろん、飲める洋食だ。
中本由美子
「あまから手帖」4代目編集長。1970年生まれ、名古屋育ち。青山学院大学経済学部を卒業後、「旭屋出版」にて飲食店専門誌を編集。1997年、(株)クリエテ関西に転職。「あまから手帖」編集部に在籍する。2001年フリーランスに。「小宿あそび」「なにわ野菜割烹指南」などのMOOK・書籍を担当後、2010年、「あまから手帖」編集長となる。
あまから手帖
1984年創刊。関西の“大人の愉しい食マガジン”として、飲食店情報を軸に、食の雑学、クッキングなど関西の“旨いもん”を広く紹介する月刊誌。最新号は11月号「御堂筋線かぶりつき」。MOOK「京都 昼の100選」も好評発売中。