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裏金証言を表に出す必要性があった?

 となると、検察当局あるいは特捜部の検事たちにとって、水谷による裏金証言を表に出す必要性があったということになる。それはなぜか。

 この時期、東京地検特捜部は、非常に苦しい状況に立たされていた。

 小沢一郎の政治とカネの問題には前段があった。地検の捜査は2008年11月19日、準大手ゼネコン「西松建設」の海外事業部副事業部長だった高原和彦の逮捕からスタートしている。西松建設は海外で下請け工事を現地企業に発注する際、発注費用を水増しして香港に送金してきた。水増しした分を裏金化し、香港のペーパーカンパニー名義の銀行口座で管理していたという。そのなかで、海外事業の担当副部長だった高原が05年11月、30万米ドル(当時のレートで3500万円)をフィリピンに開設した自己名義の口座に移し替えて着服していた事実が発覚する。

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 西松建設が海外で捻出していた裏金は、実に10億円を超えていた。高原はこの金の一部を国内に持ち込んでいたという。高原の内部告発からその事実をつかんだ東京地検特捜部が、まず業務上横領容疑で西松建設の高原らを摘発した。

西松マネーで浮かんだ政界への献金

 そうして特捜部が西松建設の資金の流れを調べるうち、政界への献金問題が浮かぶのである。東京地検は小沢事務所とともに自民党代議士の二階俊博の捜査に着手した。

 09年3月3日、東京地検特捜部は小沢一郎の蓄財に捜査のメスを入れる。まず公設第一秘書だった大久保隆規を政治資金規正法違反容疑で逮捕した。大久保は資金管理団体「陸山会」の会計責任者であり、小沢の金庫番として働いてきた忠臣だ。その陸山会で、献金を受けていたという。

 大久保の逮捕容疑は、西松建設のOBが代表になっているダミーの政治団体「新政治問題研究会」や「未来産業研究会」を隠れ蓑にし、建設会社からの献金を誤魔化したという政治資金規正法違反だった。ダミー団体に社員やその家族が入会し、会費を払う仕組みで、会社が賞与にその分を上乗せして補填していた。いわゆるダミー団体を駆使した企業献金だ。
 

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 大口の献金先や金額に対しては、総務・経理部門を統括する管理本部の本部長が決定していたとされ、こうした仕組みを発案したのが、旧事務本部長時代の國澤幹雄だった。のちに西松建設の社長になった國澤本人や元取締役総務部長の岡崎彰文たちも、ダミーの新政治問題研究会名義を使い、陸山会に100万円の企業献金をおこなっている。二つのダミー団体は、与野党19人の国会議員や自民党の派閥をはじめとする37の政治団体に3年間で8500万円を寄付・支出していた。うち小沢側が、最も多い3500万円の献金を受けていたのである。西松側の逮捕者は、社長だった國澤や元取締役総務部長の岡崎におよんだ。

 もっとも、このときの大久保の逮捕容疑はいかにもパッとしない。03~06年のあいだ、西松のダミー団体名義で2100万円の寄付などを受けたという不正献金について、大久保が西松建設からの寄付だと知りながら、陸山会の政治資金収支報告書に虚偽記載をしたという疑いだ。