政治資金収支報告書に記載されない金
10月に入ると、陸山会の事務担当秘書だった石川知裕が、土地購入の件を小沢に相談して了解を得る。10月5日、1000万円の手付金を不動産屋に払って正式な売買契約を結んだ。そしてその後、石川が小沢本人から4億円を現金で受け取り、小沢から預かった4億円のうち、手付金などを差し引いた3億8000万円を陸山会の複数の銀行口座に入金しておいた。そこから土地売買の直前、分散された3億8000万円を一口座に集約する。
土地購入の代金決済日は、10月29日だった。石川はその日の午前中、3億8000万円のなかから、手付金を差し引いた代金の3億3000万円あまりを不動産屋におさめる。これだけでも十分怪しいが、さらに問題はここからだ。
この日の午後、陸山会の口座には複数の関連政治団体から1億8000万円が入金されている。そのあとの動きがおかしい。29日のうちに慌てて陸山会名義で4億円の定期預金を組む。預金を担保にし、同額の融資を受けていた。その4億円は小沢一郎名義で借り入れ、融資書類には小沢本人の署名捺印がある。
土地購入にあたり、陸山会が小沢から受け取った4億円の動きについては、いっさい政治資金収支報告書には記載されていない。29日午後の1億8000万円の入金も同様だ。ところが、銀行からの融資だけは別だった。これだけが収支報告書に書かれているのである。
陸山会の石川らは小沢本人から受け取った現金で土地を買っている。にもかかわらず、銀行借り入れによって、土地代金を支払ったように見せかけているわけだ。それでわざわざ融資書類をつくり、そこに小沢自身がサインしている。そうした一連の資金操作や不動産取引が政治資金規正法違反の一つに問われているのである。
直近5年間の所得報告書によれば、歳費などの収入を含め、小沢一郎の個人的な資金の移動は1年通して平均3000万円程度でしかない。それが、このときだけは一度に億単位の資金を動かしているのだ。そもそも、なぜ手元に資金があるのに銀行から借り入れなければならなかったのか。素朴に考えると、どうにも不可解としか言いようがない。
「小沢さんは銀行の融資書類にサインしておきながら、(政治資金収支報告書の不実記載を)知らんかったという。それで通るのやろうか」
出所後間もなく会った水谷功がそう話していた疑問がこれだ。
報告義務を知らないはずがない小沢事務所
政治資金規正法に基づく政治資金収支報告書には、その年の1月1日から12月31日までの政治団体の収支や保有する資産を記さなければならない。複数の都道府県で活動する政党や政治団体は中央分として総務省に報告書を提出し、一つの都道府県で活動する団体は地方分として都道府県選挙管理委員会に報告しなければならないとされる。小沢事務所が、こうした報告義務を知らなかったわけはない。
ちなみに購入原資となった問題の4億円について、小沢サイドは土地取引から2年半後の07年、陸山会から小沢本人に返済したという。だが、こちらも収支報告書の記載はなかった。