僕はその日、阿久悠さんがヒルトンホテルでパーティーに出席されていると聞いて、いそいそと訪ねていきました。阿久さんはニコニコしながら「あれ、木﨑くんどうしたの?」なんて感じだったんですが、僕が「このあいだいただいた『勝手にしやがれ』は素晴らしい詩だと思うんですけど、あのキャラクターを沢田研二がうまく歌えるか心配です。アラン・ドロンみたいな2枚目の詩を別につくってほしいんです」と言った途端、プーッと怒っていなくなってしまいました。「あぁ、やっちゃった」と思いました。
その後、マネージャーさんから電話があって「メロディが先にあったら、阿久悠は詩をつくってもいいと言っています」と。僕はすぐ大野克夫さんに電話して、新しい曲をつくってもらいました。それを阿久さんに持っていったら、すぐに詩をつくってくれたんです。
阿久さんに「今回はキーちゃんの粘り勝ちだね」と言われたので、ほっとしたのを覚えています。
そして、このときできたのが、「あなたに今夜はワインをふりかけ」(「サムライ」[1978年]のB面に収録)。ジュリーが華やかにステージで歌っている姿がイメージできる楽曲でした。ああよかったと、胸を撫でおろしました。
イメージに寄り添わない
そして数日後、2曲同時にレコーディングすることになりました。沢田さんはグアムでの撮影から帰ってきたばかりで、ちょっと風邪気味だったのか、鼻声だったんですが、まず最初に「勝手にしやがれ」を歌ったんです。そうしたらそれがすごくよかった。
たとえば「危険なふたり」(1973年)であればどこかふわっとした、中性的なニュアンスで歌っていましたが、「勝手にしやがれ」は男らしく、あの情けない詩をパキッと歌えたんです。
しかも、ちょっとあざといかなと思っていた「♪ワンマンショーで」が、すごくカッコよく聴こえました。もし、あそこであの詩を変えていたら、曲のよさが何パーセントか目減りしていたと思います。
阿久悠さんは、僕らが思うのと逆のものを沢田研二という歌い手にぶつけてきたんですよね。アーティストに寄り添わない詩をつくった。そこが阿久さんのすごいところですね。お見通しなんです。
身をもって感じた沢田研二のスーパースターぶり
そして、沢田研二のアーティストとしてのパワーはやっぱりすごいと思いました。一見ダサいかもと思うような言葉を、カッコよく新しく生き返らせてしまうんです。そういう人がダサいと思うものをカッコよく見せられたり、生き返らせることができる人がスーパースターで、次の時代をつくっていくんだということを、身をもって感じました。
この「勝手にしやがれ」の制作は、僕にとって忘れ得ない経験です。ものをつくるときのいろんなパワーが炸裂する瞬間に立ち会えたことが、僕の後の財産になりました。